社員が自慢できる、働きやすい町工場を目指して(株式会社 上田製作所 代表取締役社長 上田大輔様 インタビュー③)

地域に、取引先に、社員に愛される会社へ

株式会社上田製作所は、自動車用、産業機器用スイッチの設計製造と金属の切削加工を行うメーカーである。自動車メーカーの一次サプライヤーとして、約70年にわたり自動車部品を製造する中で培われた経験と技術からなる高品質な製品は顧客の高い信頼を得ている。

本特集では同社が取り組んできた職場環境の改革と今後の展望について代表取締役社長の上田大輔氏(以下、上田社長)と取締役工場長の石渡良平氏(以下、石渡工場長)に話を伺った。第三回は同社が力を入れている地域に根ざした活動と、上田社長の目指す会社の姿について取り上げる。

同社代表取締役社長 上田大輔氏(新本社の屋上にて)

 

効率の良い営業手段として展示会を活用

コロナ禍の影響はありましたでしょうか。

上田社長:影響はありましたね。新型コロナウイルス感染症が流行し始めた2020年の春から夏にかけては、陽性者が出ると飲食店は休業、製造業はラインを止めて全館消毒が必要な時期でした。当社では幸いその時期に陽性者は出なかったのですが、取引先でラインが止まり納品できずに売上が最大5割ほど落ちた月もありました。社内ではサーモカメラの導入や消毒用アルコールを各所に配置するなど、ハード面のコストもそれなりにかかりました。

現在では、受注自体はコロナ以前に戻りつつありますが、コロナ禍に起因する世界的な半導体不足によって取引先が生産調整を行うことがあり、完全に元に戻ったとは言えません。原材料価格の高騰も影響が大きく、取引先との価格交渉や社内的なコスト削減の取り組みなど、まだまだ取り組むべき課題は多いですね。

 

御社の展示会への取り組みについて教えてください。

上田社長:先日、東京ビックサイトで行われた「2022“よい仕事おこし”フェア 」に出展しました。各社が「いち押し」の最新技術を出展するので、ニュースやインターネットでは知っていても直接見たことがない技術や製品をまとめて見ることができますね。

また、今のご時世ですと、昔ながらの飛び込み営業は好まれませんが、展示会の場では会社同士の情報交換や交流が非常に効率的に行えます。特に、普段ではなかなか難しい、地方の企業とのつながりができることが有難いですね。我々のことを知ってもらい、我々が様々な企業や業界全体の動向を知ることができる、両面でのメリットが得られる場だと思います。

展示会ブースの様子(写真左) 上田社長自ら説明を行う(写真右)

 

製造業の未来のために地域との連携を強めたい

他の企業や地域との連携にも力を入れていると伺いました。

上田社長:当社は、スイッチの設計や組立、金属の切削加工などは得意なのですが、溶接や表面処理、熱処理など、自社でできないこともたくさんあります。当然、ひとつの製品を作り上げるためにそれらの加工が必要になるので、大田区の企業を中心に、協力を得ながら完成品を作り上げています。逆に他社から当社の得意な分野を依頼されることもあり、大田区全体として協力しながらものづくりを行っているイメージですね。

大田区は製造業の企業数は多いのですが、社員数10人以下の企業が8割以上と言われています。つまり、なにかひとつに特化している企業が多いので、それぞれの強みを組み合わせることで、より良いものづくりができればいいと考えています。そのようなつながりを維持し、強くしていくためにも、地域活動として大田区の町工場が協力して本格的な日本製のソリを作る「下町ボブスレー」という活動や、ものづくりの楽しさを子供たちに伝える「おおたコマ」プロジェクトなどに参画しています。

また、その活動の一貫として、小学校にものづくりの授業を教えに行ったり、今はコロナ禍で控えていますが工場見学に招待したりと、地域の子供たちにものづくりに興味を持ってもらうよう活動を行っています。先日は、当社で初めての試みとして「ものづくりカップ2022」という、工業学校、高等専門学校を対象としたバスケットボール大会のスポンサーとして協賛しました。

石渡工場長:製造業が人手不足と言われて久しいですが、この業界のことを知らないことが一番の原因だと感じています。ものづくりは素晴らしい仕事ですので、小さなお子さんや若者など、これからの世代にものづくりに触れてもらう機会を少しでも多く提供することが、この業界にとって長期的に良い取り組みになると信じて地道に活動しています。

 

今後のビジョンについてお聞かせください。

上田社長:社員が「上田製作所に勤めて良かった」と思える企業になることが一番の目標です。会社としても、「うちにはこんなに素晴らしい社員がいるんだ」と自慢したいですし、社員も周りに対して「うちの会社こんなにすごいんだぜ」と自慢できる会社になりたいです。社員が自分の子供や友人に、「お前もうちの会社に来なよ」と言ってもらえれば最高ですね。そのためには、経営側からの押しつけではなく、常に社員の声を聴く姿勢を持ち続けることが大事だと思っています。

石渡工場長:社員の声を聴くために、最近は必要に応じて面談の機会を取っています。来期からは定期的な面談の場を設けるように準備をしています。面談で必ずしも本音が聴けるわけではないと思いますが、やり方の工夫や回数を重ねることで、お互いに腹を割って話ができるようになるのではないかと期待しています。

上田社長:社員の声を聴きながら、ハード面での働きやすい環境を整えたり、ソフト面では教育を充実させたりと、試行錯誤をしています。そして、もちろん生活していかなければいけないので、給与面でも他社と遜色ないものは出したいと考えています。もちろん、経営資源の面からできないこともありますが、現時点ではなにがベストかを常に考えながら経営していきたいですね。

 

同社の主力事業のひとつであるスイッチの組立工程


業種   自動車用、産業機器用スイッチの設計・開発・製造、金属切削加工

設立年月          1953年7月

資本金              30,000,000円

従業員数          42人

代表者              上田 大輔

本社所在地      東京都大田区大森南4-13-7

電話番号          03-6423-7520

公式HP           http://www.ueda-mfg.co.jp/

この記事の著者

玉川 信

玉川 信

2021年中小企業診断士登録。会社員として営業職を経験した後、現在はコインパーキング運営会社を経営。自らが中小企業経営者であることから、経営者でなければわからないお悩みやご苦労に寄り添った経営支援をモットーとする。

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