相手の目線で考えることで自社の強みを発揮する(大森精密工業株式会社 土方徹之助代表インタビュー①)

私たちの生活を支えるローレット加工

大田区千鳥にある大森精密工業株式会社は、ローレット加工をはじめとした精密複合加工を手掛ける企業だ。2015年創業と若い企業ながら、高い技術力・顧客対応力を活かし売上を伸ばしてきた。

本特集では同社の好調な売上の秘訣や今後の展望について、代表取締役である土方徹之助氏へお話を伺っていく。第一回では同社の加工技術や創業に関する話を取り上げる。

大森精密工業株式会社代表取締役 土方徹之助氏

 

これまでの経験を糧に創業を決意

創業した流れを教えていただけますか。

土方徹之助代表取締役(以下、代表):新卒から約20年勤めた金属加工業の会社を退職して起業しました。その会社では取締役として経営判断の一部に携わりましたが、最終的な経営判断の場面で私の考えが通らないことが重なり、自分自身の意思を通して事業を進めたいと考える機会が多くなりました。それまで取締役として経営に関わった経験や形成した人脈を活かせば事業を始められるかもしれない、と思い起業を決めました。

 

起業といっても、自分ひとりで機械1台を所有しながら細々と始めようと考えていた程度でしたが、退職する旨を周りに伝えたところ、同僚数名から「土方さんが独立するなら一緒に仕事をしたい」と声をかけられました。もし同僚たちと一緒に仕事をするならば、きちんと給料を支払えるような企業にしなければと思って一念発起し、資金集めなどをしながら当社を立ち上げた、というのが経緯です。

 

企業名はどのように名付けられたのでしょうか。

創業の地である「大森」に加えて、どんなことをやっている企業なのかがひと目でわかるように「精密工業」を入れたいと考えました。気をつけた点は、インターネットで検索した時に同じ名前が出てこないかというところです。ネットを検索してほぼ同じ名前の企業が複数表示されることがありますよね。顧客が弊社に依頼をしたいときに、検索で当社にたどり着くまでいくつもページも開かないといけないのは困りますし、場合によっては受注の機会を逃してしまうかもしれません。現在の名前は、一見ありそうだけれども検索しても出てこなかったんです。現在でも当社の名前を検索サイトで調べると一番上に出てきますよ。

 

多様な業界との取引で安定した経営を

貴社を代表する加工技術のひとつであるローレット加工とはどんなものでしょうか。

代表:一言で言えば、滑り止めです。ローレット加工が使われている一例としては、機械などのツマミです。指でつまむ部分が何の加工もされていなくてつるつるだった場合、引っかかりがないのでツマミは回しづらいですよね。でもローレット加工がされていると指が滑らずにツマミを回せますし、細かい調整もできるようになります。

 

また電子機器などで表裏の部品をつなぎ合わせるビスでもローレット加工が活躍しています。薄い金具が埋め込まれたところをビスで固定する時、ローレット加工がされていると加工した跡に樹脂が食いつくので、がちっと固まるようになります。中でビスが回らないようになれば機器のヒビや割れの原因を防ぐことができるんですね。あまり聞き馴染みはないかもしれませんが、目につく場所でもつかない場所でも、身近な様々なところで使われている加工技術です。

 

どのような業界と取引をされていますか。

代表:当社は医療機器や産業機器をはじめ、幅広い業界の顧客と取引をしています。これは私の戦略なのですが、もし特定の業界に対する比重が大きかった場合、その業界が傾いた時に自社の経営に大きな影響が出てしまいますよね。反対に幅広い業界と取引があれば、どこかの業界が傾いたとしても他の業界からの仕事でカバーできるようになるため、売上のバランスが取りやすくなります。この戦略のおかげもあり、コロナ禍でも売上には大きな影響が出ず、現在でも業績は好調な状態です。

 

高さ約1cmの部品に微細な目が施されている

 

新型のNC自動旋盤導入など積極的な設備投資を行っているそうですが、背景を教えてください。

代表:まずは稼働率を上げることが目的です。当社では受注量の拡大に伴って、切の出づらい製品など無人で稼働しても品質に影響が出ないものを中心に、24時間かつ休日の製造にも対応しています。しかし、もし古い製造設備を使って1つあたりにかかる時間が長かったとしたら、稼働時間をいくら伸ばしても納期遅延の原因になりかねません。納期を守れずに売上に影響が出た場合、結局は自分たちのダメージが大きくなってしまうので、稼働率を上げるための設備投資だと感じています。

 

また、どのような業種であっても世の中のトレンドを掴みながら進めるべきだと思っています。前職ではカム式自動旋盤という大量生産ができる装置も使っていましたが、複雑な加工に適さず寸法変更の際には新たな型を立ち上げる必要があり、現在はほとんど国内で使われていません。私は以前からこのトレンドを予期していたので、生産量は落ちるものの複雑な加工がコンピュータ操作でできるNC自動旋盤に関する知見を深めるようにしていました。おかげで、今はNC自動旋盤のノウハウを活かして事業を成長させられています。技術のトレンドを見据えながら、自社の受注量のバランスを見つつ新しい製造設備の導入を検討することはやはり大切ですね。

新型の設備が所狭しと並ぶ同社の製造現場

 


社名 大森精密工業株式会社

業種   金属製品製造業

設立年月          2015年7月10日

資本金              5,000,000円

従業員数          5人

代表者              代表取締役 土方 徹之助

本社所在地      東京都大田区千鳥2-1-15

電話番号          03-6423-9155

公式HP           https://omori-seimitsu.com/

この記事の著者

依田 彩那

依田 彩那中小企業診断士

2022年中小企業診断士登録。大学卒業後、自動車部品メーカーにて人事・営業を経験後、ソフトウェアベンダーへ転職。現在は人事部門にて採用・教育・評価を担当。組織開発で企業を成長させられる人材になることが目標。

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