命を守る一瞬のための精密部品(株式会社葵精螺製作所)

命を守る“一瞬”を支える部品

東京都大田区に本社を構える株式会社葵精螺製作所は、創業以来「できない」と言われた加工に挑み続けてきました。数ある製品の中でも、同社の技術力を象徴するのが、自動車のシートベルトに組み込まれるプリテンショナー用の精密部品です。
この部品は、事故の瞬間に作動し、シートベルトを瞬時に巻き取る重要な役割を担っています。構造としては、この小さな部品が一定の力を受けて“倒れる”ことで、連動してシートベルトが締まり、乗員の身を守る仕組みになっています。
一見シンプルな形状のようでいて、その加工は極めて難易度が高く、多くの同業者がトライをしたのですが、量産化出来なかったと聞いています。実際、この部品は10年以上にわたってどの企業も量産に成功できず、本来なら複数社での調達体制を取るはずの購買も、最終的には葵精螺製作所1社に委ねられることになりました。

匠の一品 自動車のシートベルトに組み込まれるプリテンショナー用の精密部品


“できない”を覆した発想と技術

この部品に求められていたのは、素材の破断面残りが許されない「ツルツルな表面仕上げ」でした。同業他社も形状は出来ていても「ツルツルな表面仕上げ」という課題を抱えていました。

葵精螺製作所はその課題にも独自の発想で向き合い、最終的には「ツルツルな表面仕上げ」を実現。これにより、他社に先駆けて量産化を成功させました。

図面だけでは伝わらない設計意図を“感覚で読み解く力”。「こうやればできるんじゃないか」と即興で工夫を重ねる柔軟な発想。そして他社が10年できなかった加工を実現する技術力。そのすべてが詰まったこの一品は、まさに同社の“ものづくりの原点”を体現する製品です。

現在では他社でも製造が可能となりましたが、この部品に込められた“最初に形にした技術”と“諦めなかった姿勢”は、今もなお葵精螺製作所の技術文化を象徴する存在です。困難に立ち向かい、「できない」を「できる」に変えてきたその挑戦の記憶は、これからのものづくりにも確かに息づいています。

横から見た匠の一品 この小さな部品が人命を守る

この記事の著者

長山萌音

長山萌音中小企業診断士

2023年中小企業診断士登録。IT企業にてサーバエンジニアとして業務に従事後、Webマーケティング会社にてWeb広告などのWeb集客を担当。その後、デジタルマーケティングのコンサル会社に転職し、シニアコンサルタントとして、プロジェクトの進行を行う。独立後はマーケティングや創業支援を行っている。

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