- 2025-7-8
- 取材・インタビュー
“できない”を覆す発想力――図面にないものをつくる町工場
株式会社葵精螺製作所の代表・関氏は、常識や理屈では解けない加工の課題に、「こうすればできるのでは?」と直感と経験をもとに挑戦してきました。大手企業が頼るその技術の裏には、家族や仲間と築いてきた信頼のチーム体制と、「他にできないことをやる」ことに喜びを見出す職人たちの姿があります。スプリングバックへの逆発想、いたずら防止部品の形状提案、そして大手メーカーからの信頼を得た実績。第二回では、“できない”から始まる葵精螺のものづくりに迫ります。
発想力が導く、唯一無二の技術力
―御社の技術的な強みは何でしょうか。
関氏:うちの強みはやはり、設計力と発想力にあります。普通に考えたら「これは無理だろう」と言われるようなことでも、「こうやればできるんじゃないか」と即興で試してみる。そういう柔軟な思考こそが、葵精螺のものづくりの出発点です。理屈では説明しきれない、“感覚”のようなものが非常に大きいですね。
この発想力は、閃きというものに近いのかもしれません。専務である弟もそうなのですが、図面を見て数分もしないうちに「あ、これはこうだな」とアイデアが湧いてくるんです。そうした才能や勘が、自然と私たちの中に流れている感覚があります。
私自身、これまでずっと「どうやったら形にできるか」を考えることが楽しくて仕方なかったんです。製品が出来上がるまで苦しいときもありましたが、つくること自体が喜びなんですね。
そんなものづくりの姿勢を評価していただいたのか、名だたる企業からもお声がけをいただく機会がありました。家電から自動車部品まで手掛けるある大手企業さんとは、大手企業さんが中国で信頼できる加工会社を探している中でお話をいただいたのですが、最初は上海周辺で探しても、なかなか希望する技術力を持つネジメーカーが見つからず、最終的には中国南部の深圳まで足を延ばしてこられたそうです。その中で声をかけていただけたことは、大きな自信にもなりました。
また、別の大手企業さんには、望遠レンズのモーターに使用されるネジを納品していおりますが、もともとは切削加工で検討をされていたそうです。ところが、後処理工程で歪みが出てしまい、100本中70本程度しか良品が得られないという課題があったそうです。そこで当社の加工方法を取り入れていただいたことで、切削せずに安定した品質の製品ができるようになり、歩留まりも大きく改善されました。こうした実績もまた、「どうしたらできるか」を考え続ける、当社のものづくりの姿勢が評価された結果だと感じています。

ネジの製作の様子

次々に製作されるネジ
―発想力で解決した具体的な事例を教えてください。
関氏:たとえば、ある自動車部品の案件で、スプリングバック(成形後に材料が元に戻ろうとする現象)に悩まされたことがありました。力を加えた部分が反作用で押し返されて、見た目は平らでも、実際に測ると微妙に盛り上がってしまうんです。もちろん研磨して整えることもできますが、それでは時間もコストもかかってしまう。
そこで私たちは、スプリングバックをあらかじめ計算に入れ、逆に少し膨らませた金型を設計しました。戻ることを前提に形をつくる、いわば“逆算の発想”です。その結果、量産でも高い精度を安定して保つことができました。
また、かなり昔に公営の設備で「いたずらされない形状のネジをつくってほしい」という依頼がありました。通常の+(十字穴)又は-(スリワリ)形では簡単に回されてしまうため、三ツ矢形状の専用工具だけが締め付けたり緩めたり出来る特殊な形状にすることで対応しました。今でこそたくさんの形状がありますが、当時は+か-しか無く、そんな時代でしたので、あれは特許を取っておいてもよかったと、今でも少し悔やんでいます。
私が会社員時代に誇りにしていることの一つが、ネジの不良を一度も出さなかったことです。当時は100本中3本までの不良が許容されていた時代。なぜ不良が出るのか原因を探ったところ、ネジ加工前のブランクが滑ることで寸法が狂っていたとわかりました。そこで、ネジ転造移動側用の金型にあえて細かい傷をつけて滑りを抑える工夫を施したんです。シンプルですが効果は抜群で、以降は不良ゼロを維持できました。
こうした大小さまざまな工夫を積み重ねながら、「できない」と言われたものにこそ挑んでいく。それが、うちのものづくりのスタイルです。

特殊ネジのひとつである「三ツ矢ネジ」
技術を支える、仲間と家族のチーム力
―組織としての強みや人材についてはいかがでしょうか。
関氏:創業当初から支えてくれているのが、実の弟です。私と同じように発想力に長け、現場を安心して任せられる存在でした。それから、前任の榎本工場長も長年うちを支えてくれた大切な仲間です。実は彼とは前職の同僚で、その頃から技術力には一目置いていました。75歳まで現役で働いてくれて、「関さんと一緒に仕事ができて本当によかった」と言ってもらえたときは、胸が熱くなりましたね。
うちは小さな町工場からのスタートでしたが、今ではどの現場でも、皆が誇りを持ってものづくりに取り組んでくれています。「自分の仕事が、社会のどこかでちゃんと役立っている」と実感できるからこそ、やりがいや責任感が自然と育まれているのだと思います。実際、「この仕事、楽しい」と言ってくれる社員も多いんですよ。
私が思いついたアイデアを、現場がしっかりと形にしてくれる。そんな信頼と連携の土台があるからこそ、他社が敬遠するような難しい仕事でも、うちでは実現できているのだと思います。そして、「他にはできないものをつくる」という喜びを、社員一人ひとりが感じてくれている。それが、何よりも私の誇りです。
業種 精密ネジ製造
設立年月 1962年9月25日
資本金 5,000万円
従業員数 国内39人 (グループ全体180名)
代表者 関信也
本社所在地 東京都大田区下丸子2-30-21
電話番号 03-3750-3831






と-山田信一社長(写真右)-150x150.jpg)







