- 2025-7-15
- 取材・インタビュー
“できない”を可能に変える技術と体制――職人の感覚を仕組みに変える挑戦
葵精螺製作所の“唯一無二の技術力”は、社長の発想と経験から生まれたものでした。しかし、その感覚や勘を次世代へそのまま引き継ぐことは容易ではありません。第三回では、そうした“属人的な技術”を「チームとしての知恵」へと昇華する取り組みに迫ります。さらに、営業体制の変化や共同開発の推進、中国工場との連携強化、そして金型内製化によるスピードアップなど“できない”に向き合い続ける現場の知恵と、進化する組織の姿を描きます。
次世代に紡ぐ「できないをやる技術」
―技術の継承について、どのような取り組みをされていますか?
関氏:私が若い頃は、パソコンなんてもちろんありませんでしたから、すべて頭の中に記憶していたんですよ。「こういう製品はこう作る」といった製造の感覚や手順も、すべて経験と勘でこなしていた時代です。
でも、今の時代はそうはいきません。次の世代にしっかり引き継いでいくためには、「記憶」ではなく「仕組み」に変えていかないといけない。そこで今は、設計や工程をすべて図面化する取り組みを進めています。この部品はこういう金型で、こういうレイアウトで作った、という情報を明確に残すことで、再現性も精度も高くなるんです。
さらに最近では、類似部品の履歴を引っ張ってこれる「類似表」も整備しようとしています。過去の知見を活用して、新しい製品にも素早く対応できるようにする。その仕組みも、今後重要になってくると思っています。
この図面化の取り組みは、日本だけでなく、中国の工場でも進めています。中国で設計して図面化したものを、日本側と共有し、双方で情報を活かせるようにしています。現場の感覚や経験だけに頼るのではなく、「こういう製品はこう作る」といった知識やノウハウを図面やデータとして残していく。そうすることで、今まで自分の中にしかなかった情報を、次の世代にも伝えていけるようにしているんです。

多種多様な精密部品のサンプル
―社長と専務の発想力を、次の世代に引き継ぐのは難しいのではないでしょうか。
関氏:それは本当に難しい課題だと思っています。私と弟(専務)は長年の経験や勘で、「これはこうすればできる」と瞬時に判断してきました。でも、その感覚をそのまま引き継ぐのは、やはり容易ではありません。
私自身、これまでは「この仕事も、あの仕事も」と一人でいろいろ担ってきましたが、今の若い人たちに同じことを求めるのは難しい。だからこそ今は、役割を分散して引き継ぐ体制にしています。技術系の人材を厚くするのもその一環ですし、10年以上前から設計を専門とする人材も採用しました。仕事を集中的に任せることで、まずは実践の中で経験を積んでもらい、その過程で私や弟が大事にしてきた“発想のエッセンス”を少しずつ吸収してもらえたらと思っています。
そうした日々の積み重ねが、最終的にはその人の中に自然と染み込んでいくと信じています。
“できない”と言わない企業であるために
―現状の営業は、どのように変わりつつあるのでしょうか?
関氏:以前はありがたいことに、紹介やクチコミでお声がけいただくことが多く、こちらから積極的に動かなくても仕事が入ってくる状況でした。でもそれは昔の話し。今は、「待っているだけではいけない」と感じています。
以前の営業は、基本的にお客様から電話やファックスで注文が入り、それを工場に伝えて生産の進捗を管理したり、仕上げ工程を外注に回したりといった、受け身型の業務が中心でした。そうした受け身のスタイルから、営業を専門でやってきた方を顧問として迎え入れ、より能動的な営業体制へ移行し始めています。
たとえば、これまでは「自社だけで完結できない仕事」は基本的にお断りしていたのですが、今では外注先とのネットワークを活用し、セットで受けられる体制を整えることで対応できる幅が広がりました。こうした柔軟な姿勢が、少しずつ受注にもつながっています。
また、数年前からは展示会にも積極的に出展するようになり、昨年は大規模な展示会にも参加しました。これまでは、展示会で出会った近隣のお客様のもとへ伺うのが主でしたが、最近では少し遠方のお客様のもとにも足を運ぶようになり、新しいつながりが生まれています。そうした一つひとつの取り組みが、少しずつですが新たなお客様の広がりにつながっていると感じています。

分解された金型 精密な設計には深い知識が必要
―今後、取り組んでいきたいことはありますか?
関氏:いくつか、これから力を入れていきたいと考えていることがあります。まず取り組みたいのが「お客様との共同開発」です。これまでも単発的に対応することはありましたが、今後は継続的に、点ではなく面でしっかりと向き合っていきたいと考えています。
というのも、理想的な図面はあっても、現実的にはその通りに加工できないケースが多々あるんです。だからこそ、お客様と直接話をしながら、「どうすればその機能を満たしつつ、うちの加工方法でも実現できるか」を一緒に考えていく体制をつくりたいと思っています。お客様自身が、ものづくりの具体的な方法まで詳しいわけではありませんし、商社の方も含めて打ち合わせを重ねながら、最適解を導いていくような開発を進めていきたいですね。
それから、もうひとつが中国工場との連携強化です。あちらはスピード感がとてもあり、お客様に対してもそのような対応をしてきていることもあって、日本では数ヶ月かかるような案件でも、ものによっては中国では2〜3週間で納品してしまうほど。こうしたスピードや柔軟さは、日本の製造現場にとっても非常に参考になりますし、そのエッセンスをどんどん日本にも取り入れていきたいと考えています。
その一環として、社内でも内製化を進めていく予定です。たとえば金型については、これまでは全て外注に出すのが主流でしたが、部品によっては内製化できれば大幅にスピードアップできますし、クオリティの安定にもつながります。こちらには技術力のある従業員もいますから、外注先に依頼して調達といった手間を減らし、もっとスムーズな製造プロセスを構築したいですね。
あとは、これは個人的な夢かもしれませんが、いずれは「無借金経営」にしたいとも思っています。これまでは設備投資に多くの資金を投じてきましたが、5年以内に、より健全な体制を築けるよう努力していきたいと思っています。

山梨工場の写真を背に会社のものづくりの歩みを語る社長
業種 精密ネジ製造
設立年月 1962年9月25日
資本金 5,000万円
従業員数 国内39人 (グループ全体180名)
代表者 関信也
本社所在地 東京都大田区下丸子2-30-21
電話番号 03-3750-3831











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