- 2025-6-24
- 匠
「東京ビジネスデザインアワード」での最優秀賞受賞がきっかけ
1964年創業の株式会社扶桑は、葛飾区で転写シールの製造および販売を行っている企業です。転写シールとは、対象物に図柄などのプリント加工を施すための加工方法の一つで、印刷の難しい素材や場所にデザインだけを貼り付けてダイレクトプリントしたように見せることができるものです。今回は同社の転写シール「irodo」を紹介します。
「irodo」は2017年度の「東京ビジネスデザインアワード」で最優秀賞を受賞したことをきっかけに商品化をスタートさせた、同社初のBtoC向け製品です。デザインは、ドット・記号・アルファベットなどシンプルなものが多いですが、綿、麻、革、化繊、合繊など様々な素材に貼れ、貼った仕上がりの馴染みが良く、凹凸がないのが特徴です。また、従来のアイロンシールと異なりアイロンが不要なことから、年齢を問わず誰でも楽しむことができます。
使い方は簡単で、ハサミでシートをカットし裏側のフィルムを剥がして生地の上に乗せ、10円硬貨などで擦ると、シート側についていた図柄が布に移ります。新入学のシーズンには園児や児童の持ち物の目印や、文房具のデコレーションに使用されたりします。
社内に蓄積されていた技術をベースに開発
「irodo」の開発においては、原料の調合や印刷方式の組み合わせなど社内に蓄積されていた技術をベースに、布により馴染みやすく貼れるようにしたり、耐久性を増すための改良などに取り組まれたとのことです。
そのように苦労して開発した製品は、発売当初は多くのメディアに取り上げられ、国内で約500店舗の量販店で取り扱われる中で、年間で100万枚以上売れた時期もあったとのことです。
発売当初は市場で唯一の製品でしたが、他社から類似製品も出てきました。OEM品として既に製造していたこともあり、特許を取得しなかったためですが、特許取得より商標取得やブランド認知度をあげるためにお金を使う方針で進めたとのことです。「私たちの製品を作りたい」という強い思いから生まれた商品と言えます。
コロナ禍の影響は大きく受け、大口商談が流れるという大きな痛手を被る一方で、マスクのデコレーションで使用するという特需が出て、自社製品のため粗利はOEM品と比べると高いことから、経営的には助けられたとのことです。
現在でもニッチながら底堅い需要はあり、推し活のドール服のデコレーションで使っている人もいれば、鞄メーカーのノベルティで採用されたこともあり、“商品があることでユーザーが勝手に用途を考えてくれる”ため、特定の層に刺されば一気に需要が広がる可能性もあるとのことです。
「irodo」は同社の事業の幅を広げつつ、経営を下支えしている「匠の一品」です。

匠の一品「irodo」

「irodo」でバッグにデコレーション