持続可能な明日のために~BCP×パートナーシップ~(さとあいマネジメントサポート88 岩間隆資)

持続可能な明日のために~BCP×パートナーシップ~
昨今の新型コロナウィルス感染症の拡大や政府の地震調査委員会の南海トラフ巨大地震の発生確率の引き上げの発表などにより町工場でもBCP対策の策定への関心は高まりつつありますが、一方で何から始めたらよいかわからないという声を多く聞きます。

そこで本コラムでは、町工場でも取り組みやすく且つ効果が期待できる「連携型BCP」について、さとあいマネジメントサポートの岩間さんに解説していただきました。

1.企業を取り巻く環境

近年、風水害や地震などの大規模自然災害や新型コロナ感染症の影響など、企業をとりまくリスクが急激に増大しています。

<最近の主な自然災害・感染症>

自然災害に関して言えば、たとえば、東京都大田区においても、洪水・高潮による3m程度の浸水被害、震度6弱以上の地震発生(30年以内確率86%)、富士山噴火による2~10cm程度の降灰の影響(健康・建物被害、交通・ライフラインの麻痺)が想定されています。

このような環境下、事業を持続的に発展させるため、また社員とその家族の暮らしを守るため、地域の持続可能性の向上と発展につなげるため、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定事業継続のマネジメント(BCM:Business Continuity Management)による「環境変化を乗り越え、事業を継続できる態勢づくり」が企業存続の鍵となる時代に入っています。

 

また昨今、企業での取組みも進み始めているSDGsには、自然災害への対応に関連して、以下のようなターゲットが設定されています。

■ゴール1貧困をなくそう

1.5 2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に暴露や脆弱性を軽減する。

■ゴール11 住み続けられるまちづくりを

11.5       2030年までに、貧困層及び脆弱な立場にある人々の保護に焦点をあてながら、水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、世界の国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす。

■ゴール13 気候変動に具体的な対策を

13.1       全ての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。

 

日本政府によるSDGs推進の主な取組みの中にも、レジリエント防災・減災の構築、気候変動対策・適応推進,災害リスク体制強化、などが挙げられており、BCPによる災害への備えは、自社の業務の継続やビジネス機会の喪失回避に留まらず、SDGsの目標達成への貢献にも繋がって行きます。

企業にとって、脱炭素化への貢献による温暖化抑制と、BCPへの取組みによる社会の強靭化は、表裏一体の経営課題と言えるでしょう。

 

2.企業のBCPへの取り組みの現状

東日本大震災以来、事業継続計画の策定・導入を進める企業が増えてきました。しかしながら、帝国データバンクの2021年5月の調査によれば、「策定している」と回答した企業は17.6%と、策定率はまだかなり低いことがうかがえます。このうち、大企業は32.0%が策定済みですが、中小企業は14.7%となり、中小企業のBCP策定は「まだまだ」の状況です。

背景として、策定に必要なスキルやノウハウの不足、人材や時間の不足などが未実施の理由として挙げられており、また「必要性を感じない」「自社のみ策定しても効果が期待できない」という否定的な捉え方もあるようです。

 

3.効果をあげる連携型BCP

とはいえ、「必要性を感じない」はともかくとして、「自社のみ策定しても効果が期待できない」に対しては、裏を返せば、「他と連携したBCPにすることで、効果が期待できる」と前向きに捉えることもできます。

では、どのような連携をすれば、効果が期待できるでしょうか。

一般的にBCPでは、人・物・金・情報の面で、災害発生時に弱い部分に事前対策を行いますが、様々な自然災害や感染症の脅威や被害想定に対して、企業単独であらゆる対策を行うには、そのリソースやノウハウに限度があります。

そこで、例えば、企業単独での実現化のハードルが高い対策(以下図の赤字部分)については、信頼できるパートナー(他企業・グループ企業)などと連携・共同し、備えを検討できると良いでしょう。

例えば、地域の異なる同業者間で、調達・生産・販売・物流面等で連携することで、非常時の業務代替・供給継続が可能となりますし、平時のスケールメリットにもつながります。また、地域での連携により、水・電気・備蓄品など非常時への備えに関して、個々の事業者の負担軽減が図れます。同業者組合での連携では、共同で災害被害をカバーする保険への加入なども検討可能かもしれません。

 

4.パートナーシップで事業を継続しよう

SDGsのすべての取組みのベースとなるのが、「ゴール17 パートナーシップで目標を達成しよう」ですが、これはBCPへの取組みにも当てはまります。

自社のステークホルダーをパートナーとして捉え、自社の強みで貢献するとともに、弱みを補ってもらうことで、日頃からの関係性や非常時の連携を強化し、より包摂的で、さらに効果的なBCPにレベルアップさせることが可能になります。

以下の各々のパートナーとの関係で、自社のBCPを総点検してみてください。やれること、やらなければならないこと、やりたいことが、きっと見えてくるでしょう。

BCPを備えた企業が、行政・地域住民や他の事業者などと連携することで、効果的な防災・減災や事業継続を可能にし、地域の暮らしや経済を守ることに繋げられればと思います。

 

ただ、実際のBCP策定にあたっては、あまり難しく考えず、とりあえず、まずはシンプルに作成したものからスタートし、徐々に見直し、精度を上げて行くスタンスで取り組めると良いでしょう。

BCPの入門編として、中小企業が取り組みやすい「事業継続力強化計画」の認定制度にも「連携型」が設けられています。認定により、防災・減災設備に対する税制優遇、低利融資、補助金の優先採択等を受けることもできますので、信頼関係のある事業者グループでの策定を検討してみられてはいかがでしょうか。

参考)中小企業庁:事業継続力強化計画https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm

 

「どんな逆境でも乗り越える」という確固たる信念を持ち、パートナーシップで、激変の時代を乗り越えて行きたいですね。

この記事の著者

岩間隆資

岩間隆資さとあいマネジメントサポート88代表/中小企業診断士

1990年アサヒビール株式会社入社。本社では、業務改革リーダーとして、営業情報・業務のインフラ整備によりBtoBの営業力強化を推進、また、生産計画リーダーとして、生販配の連携強化・東日本大震災下での商品供給の継続に貢献した。現場では四国・九州の営業企画部長として、地域特性に根差したマーケティングと、現場一人ひとりの力の発揮を支える組織運営により、全国上位の業績に貢献。 2020年高松市へ移住、独立。30年間にわたる営業・IT・企画・生産・監査部門および現場マネジメントでの実践体験に基づく知見・智慧、成功・失敗経験を生かし、企業・組織のマネジメントサポートに取り組む。 趣味は「巡礼の旅と水墨画」。

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