“人は宝”の経営哲学、二代目が挑む、生産性向上と技術継承の両立(蟹谷精密研削社インタビュー②)

町工場育ちの二代目が推進する、熟練技能の「見える化」とDX戦略

第二回は、蟹谷様の入社経緯から経営者としての道のり、そして現在注力されている「技術継承」と「効率化」を図るDX戦略について掘り下げます。職人の勘所をいかにして科学し、次世代へ繋いでいるのか、その取り組みに迫ります。

 

「町工場」から「企業」へ。二代目が誓った組織への脱皮

-蟹谷社長は、もともと家業を継ぐご予定だったのですか?

蟹谷氏:外の企業で3~5年くらい修行してから家業に就こうと考えていました。例えば、中学時代から趣味でギターを始めていたので、漠然と楽器制作の道に進みたいと考えていました。ですから高校は工業高校に進みました。その後、「今後は学歴も必要になるだろう」という父や周囲の勧めもあって、当時、一般的ではありませんでしたが、工業高校から大学進学をしました。大分県の工業大学だったんですが、親元を離れて自由な生活を謳歌していましたね。ところが、卒業を控えた大学3年の頃、父が腎不全で身体を壊してしまったんです。そして父からは、「卒業したらすぐ家業に入れ」と言われまして、修行期間なしで、そのまま家業に入ることになったんです。

 

-心の準備もままならない状態での入社だったわけですね。2002年に代表になられ、どのような思いで働かれていたのですか。

蟹谷氏:町工場の息子であるため、「二代目」という目で見られるのが嫌でしたね。だからこそ、父が亡くなって2002年に私が代表になった時、強く思ったんです。「これまでの『町工場』というレベルから脱却しなければならない」と。町工場であっても、一企業の経営者として、従業員の生活を守り、社会的な責任を果たせる組織にしたい。この10年、15年は、町工場から「企業」へと脱皮するために、社内改革に必死に取り組んできた期間でした。例えば、NC研磨機の導入もそのひとつです。数多く受注したとしても、スイッチひとつで統一した寸法に仕上げられるようにプログラム化することで、たとえ、忙しくなっても誰でも仕上げられるようにDX(デジタルトランスフォーメーション)、オートメーション化を推し進めました。

NC研磨機で作業する従業員

 

「勘と経験」から「データ」へ。

-社長就任後、特に力を入れた改革について教えてください。

蟹谷氏:2018年頃のことです。半導体業界の活況に伴い、かつてないほどの特需が舞い込みました。いつもは、お客様からの注文書も、薄い封筒に2〜3枚入っている程度でした。ところが、ある時期から急に、封筒がパンパンに膨れ上がるほど届くようになりました。図面の納期を見ると、来年、再来年の分。しかしその当時、当社の受注管理はすべて「ノート」への手書きで行われていたんです。父の時代ならそれで回っていました。でも、これだけの量になると、もう書くだけで一日が終わってしまう。「これじゃあ絶対に回らない」と直感しました。また当時、工程管理や日程計画の張り出しも、ホワイトボードに図面や作業指示書をマグネットで貼って、「終わったら剥がす」というアナログな作業をしておりました。そうしたこともあり、「もうDX化するしかない、システムを入れるしかない」と腹を括ったんです。改革のきっかけでした。

 

-そこで導入されたのが生産管理システムですね。

蟹谷氏:はい。2018年に「TECHS-BK」という生産管理システムを導入しました。このシステムは、時間を捻出できるだけでなく、リピート品が来た時に「前回は誰がやって、どのくらいの時間でできたか」という実績もすぐに出る。これが標準時間の算出や、適正な見積もりの根拠になります。「勘と経験」だけに頼るのではなく、データに基づいて判断する。受注管理、工程管理、発注管理、原価管理を一元化できるシステムへの移行を決断しました。でも、作業するのはあくまで人間です。もちろん、導入してすぐに魔法のように楽になるわけじゃありません。半年間はその「TECHS-BK」を提供してくださっている株式会社テクノアのかたに来てもらって、教育を受けながら、必死でマスターデータの構築を行いました。

株式会社テクノア『TECHS-BK』のシステムフロー図 ※出典元:株式会社テクノアホームページ

 

「属人化」からの脱却。誰でも測れる仕組みが、技術継承を加速させる

-システム導入によって、現場はどのように変わりましたか?

蟹谷氏:判断のスピードが上がりました。例えば、これも株式会社テクノアの「Seiryu(セイリュウ)」という工程管理ソフトを使って、工程を日程ごとにガントチャートで表示するようにしました。事務所だけでなく現場にもモニターを設置しています。日程計画を皆で見えるようにしました。面白いのが、担当者ごとの負荷状況が色でわかるんです。ある担当者に仕事が集中しすぎると、その人のバーが「赤く」表示される。そうすると、「あ、〇〇さんに負荷が掛かりすぎている」と誰が見てもわかる。それを見て、工場長が「じゃあ、こっちの仕事は手が空いている〇〇さんに回そう」とか、「この工程なら自分でもできるから手伝おう」といった判断がその場でできるようになった。これが大きいですね 。

 

-そのほか、すべてのお客様の期待に応えていくには品質管理も重要ですよね。

蟹谷氏:現場の温度管理の徹底や測定機器のデジタル化によって品質管理しております。デジタルマイクロを使用し、ミクロン単位の測定をおこなっています。加えて、キーエンスの三次元測定機を導入しました。これは、機械に乗っけたまま加工中に測れるもので、カメラで空間を座標にして測っていくものです。製品をステージに置いてボタンを押すだけで、誰が測っても正確な数値が出る。これは現場の職人の技を否定するものではありません。むしろ、測定という単純作業をデジタルに任せることで、職人はより付加価値の高い「加工」に集中できるようになったんです。「属人化」を解消し、誰でもベテランと同じ品質が出せる仕組みを作る。それが、技術継承のスピードを上げる鍵だと確信しています。

 

-職人の手が必要な場面もあるような気がしますが、いかがでしょうか?

蟹谷氏:確かにそうですね。例えば、NCはプログラム通りに動いてくれますが、最終的な「面粗さ(表面の滑らかさ)」や精度を追求しようとすると、やはり人間の「勘所」が必要になってきます。砥石の表面をダイヤモンドで整える際、どのくらいの速度で動かすかといった微調整は、職人の感覚が重要です。金属加工では、数が多くても条件が全く一緒ということはありません。加工中に熱を持って振れ始めたりすることもあります。そうした時に、「ちょっと振れてきたな」と察知して切り込みを戻したり、ゆっくり当て直したりといった判断は、人の手と感覚でないと難しいですね。

最後、職人の手によって磨きあげられた製品


最後、職人の手によって磨きあげられた製品

業種   諸機器部品研削加工、諸機器部品製造加工

設立年月          1969年(昭和44年)1月10日

資本金              1,000万円

従業員数          12人

代表者              蟹谷 雅彦

本社所在地      神奈川県川崎市川崎区江川1丁目11番2号

電話番号       044-287-2135

公式HP           https://kaniya-seimitsu.co.jp/

この記事の著者

中坪孝太

中坪孝太中小企業診断士、1級販売士、豆腐マイスター、ソイオイルマイスター

東京都中小企業診断士協会所属。広報部、青年部に所属。日用品の製造会社において営業に従事し、営業所長としてマネジメント業務も行う。販路拡大や、お店の売り場づくり、棚割の作成などに取り組む。

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