インクで描く匠の未来図(有限会社小堀加工所 代表取締役 小堀泰克氏インタビュー②)

父の背中と大企業での学び
第一回では、小堀加工所が小ロット受注に取り組むことになった理由や、安全・安心な労働環境整備への考え方についてお話を伺いました。第二回は、小堀社長が先代社長から受けた影響や経営哲学、新たなリーダーとの出会いについてさらに掘り下げてお聞きします。

住宅街の一角にある小堀加工所。カラフルな扉が印象的

 

 ―(先代社長である)お父様からはどのような影響を受けましたか?

小堀氏:父が事業をしていた当時は、発注元の営業担当者から「上から目線」で理不尽な扱いを受けることも多かったようです。有機溶剤を使用する危険な作業をしていても価格は上がらず、出された仕事をそのまま受け入れるしかありませんでした。父は高卒で大学を出ていなかったので、子供たちには自分のようにはなってほしくない、学歴を持たせたいと考えて、財産を残すよりも学費に投資することを選びました。私は大学卒業後に自動車部品メーカーに就職しましたが、父が病気で倒れたのを機に、専務として家業に戻りました。その後、私の下の弟妹も皆無事に大学を卒業することができました。

 

―自動車部品メーカーではどんな学びがありましたか?

小堀氏:自動車業界は人命に関わるため、品質管理が徹底されています。例えば、サハラ砂漠の真ん中でエンジンが止まれば、ドライバーは命の危険にさらされます。アメリカの大きな湖でモーターボートのエンジンが動かなくなったらどうでしょう。四輪車のエンジンがアラスカで止まれば凍死するかもしれません。私が勤務していた開発部では、低温や高温など極限環境の試験室に一日中籠ってチューニングを行っていました。その経験や知識が、現在のお客様からの品質要求に対応する上でも非常に役立っています。ちなみに、私は印刷工程で体毛が混入しないように腕は脱毛をしていますし、一年間365日、決して半袖を着ていないんです。

 

若きリーダーとの出会い

今から11年前、小堀社長に一つの転機が訪れます。小堀加工所の目と鼻の先にある子供服チェーン店に買い物に来ていた女性が、たまたま目にした「パート募集」の張り紙をきかっけに、小堀加工所の扉を叩きました。それが、今や小堀社長の右腕となった早坂マネージャーとの出会いです。

―まさに偶然のような出会いですね。

小堀氏:当時、彼女はまだ20代だったと思います。面接では、将来についての考えを聞いたり、私の考えを話したりしました。あくまで例え話ですが、次から次へと新しいスタイルが出てくるラーメン店を30年、40年と続けるのは難しい。一方で、家族で細々と何十年も変わらぬ味でやっている蕎麦屋もある。日本人は蕎麦が好きだしね(笑)。子供の将来や自分の先々のことを考えるなら、そうやって長く続けられる仕事をやったほうがいいよ、と私の考えをお話ししたと思います。それが彼女の中で少し響いてくれたのかもしれません。

 

―早坂マネージャーが入社した後にどんな変化がありましたか?

小堀氏:そもそも電気工事士などと違って、シルクスクリーン印刷の技術は学校や通信講座で教わるものではないですし、仮に教えられる技術者がいたとしても、教科書もなく、教える方法も分からないというのが現状です。彼女が入社した当時も、まさに「見て覚えろ」という大工仕事のようなものでした(笑)。彼女は職場のパートさん達と協力して、六角スパナやモンキーレンチなど、その名前すら知らない工具のイラストをノートに描いてマニュアル化していったんです。私が手描きしたマニュアルは絵も字も汚いと言ってパソコンで綺麗に打ち直してくれました(笑)。

小ロットならではの熟練した手作業で高品質を保つ

 

技能の伝承とマニュアル化

―技能の伝承にもつながってゆくきっかけに?

小堀氏:はい。マニュアルを作ることによって、彼女自身も徐々に私と同じレベルに成長してゆきました。ただ、それまでの私がそうだったように、このままでは今後は彼女がずっと誰かを教え続けなければなりません。そこで、従業員がある一つの技能を習得するたびに「星」マークをつける仕組みを導入しました。まだ「星」がついていない未経験者は、既にその「星」を持つ人から直接仕事を教えてもらうという形です。「星」がついている人から学ぶことができるのですから、学ぶ方も教える方も真剣です。「星」によって技術手当も支給しますからモチベーションも上がりますし、早坂マネージャーも教育指導の負担が減る分、新しい仕事に挑戦できるようになりました。

従業員のロッカーには、「星」ラベルの付いた名札カードが並んでいます。新しい技術をともに学び、成長してゆく姿が見られ職場環境のモチベーション向上にも大きく貢献していることが伝わります。


こうして新たな若きリーダーを迎えた小堀加工所は、その歴史に新たな1ページを描き始めました。第三回では、新型コロナの危機を乗り越え、早坂マネージャーが研究を重ねて開発したスタックプリント技術の誕生、そして同社の未来についてお聞きします。


会社名 有限会社小堀加工所

業種   曲面への印刷において全国有数の技術を誇るシルクスクリーン印刷の専門会社

設立年月          昭和43年3月創業(法人設立 平成3年3月)

資本金              300万円

従業員数          役員1名、社員1名、パート従業員6名

代表者              小堀泰克

本社所在地      〒124-0004 東京都葛飾区東堀切3-12-1

電話番号          03-3603-2664

公式HP           https://kobori-kakoujo.com/

この記事の著者

大野秀敏

大野秀敏中小企業診断士

2023年中小企業診断士登録。国立大学教員兼診断士として、大学研究成果の事業化支援や産学連携プロジェクトなどに力を注いでいる。

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