インクで描く匠の未来図(有限会社小堀加工所 代表取締役 小堀泰克氏インタビュー③)

スタックプリント誕生と見えてきた新たな色

確かな印刷技術と小ロット受注による高付加価値経営のスタイルはそのままに、新たに迎えた若きリーダーと共に新たな一歩を踏み出した小堀加工所。順調に見えた中、コロナ禍が同社に襲い掛かります。二人は危機をどう乗り越えたのか。最終回では新開発技術スタックプリントの誕生と今後の小堀加工所の展望について、小堀社長のメッセージをお届けします。

―コロナ禍ではどのような影響がありましたか。

小堀氏:印刷は二次加工業なので、お客様の業界が不景気になれば仕事は減ってしまいます。つまり発注側の商品の需要に大きく左右されるということです。例えば、先ほどお話したように(第一回記事参照)コロナ禍以前には多くの引き合いがあったコンサートやフェス用のプラカップ印刷やイベント販促品への印刷需要は、コロナ禍ではそういったイベントが無くなることでぱったりと途絶えてしまいました。全く来なくなってしまったのです。景品への印刷など、小さな会社からの受注で何とか食いつないでいました。

―コロナ以降は印刷需要に何か変化はありましたか?

小堀氏:現在は海外旅行者からのインバウンド需要もあり、特にアニメ関連の販促品がとても人気ですね。あるプロ野球チームからは、ノベルティ用に選手の顔と背番号を水筒ボトルに印刷するという注文もありました。印刷業は大きく儲かる業界ではありませんが、絶対になくならないと思っています。シールはどうしても剥がれてしまうため、安全上の理由で使用が禁止されている商品もあります。販促物であっても、やはりシールよりも印刷した方が高品位で見栄えも良いですからね。

―御社2度目の「葛飾ブランド」認定となるスタックプリント技術もコロナ禍に誕生したのですね

小堀氏:そうです。コロナ禍で受注が激減してしまった時期、早坂マネージャーが「フルカラー印刷にチャレンジしたい」と提案があり、試行錯誤を続けていました。「時間のある今がチャンス」と考え、逆転の発想で熱心に研究に取り組んだのです。これとは別に、様々な条件を変えて実験と試作を重ねた結果、エポキシ樹脂を用いた独自の下地加工を施すことで、これまでポリエステル上でしか加工できなかった昇華転写インクを、ビール瓶のような着色ガラス容器や陶器の上にも鮮やかなフルカラーでプリントできる「スタックプリント」技術の実用化に成功しました。

シルク印刷の要であるスキージブレード

 

「困った時の小堀加工所」

―どんな難しい注文にも応えてくれる「困った時の小堀加工所」と呼ばれていると聞きました。

小堀氏:父の時代からそう呼ばれ続けていることは、誇りに思っています。父はあまり人付き合いが得意ではなかったので「誰もやらないような仕事」ばかり受けてきたんです。ペコペコの容器や芯の無いチューブなど印刷面が安定しないものや、中身の入ったビール瓶に印刷するなど、他では断られるような難しい仕事がうちに持ち込まれてきました。野球のアルミバットに選手のサインを入れる依頼もありました。バットは長さがありしかも両端で直径が異なる円柱ですから、そのようなものに印刷する業者は他になく、結果的に「小堀に頼めばなんとかなる」という評判が生まれました(笑)。だから、うちでは昔から印刷しやすい固い容器などはほとんど扱っていなくて、取っ手の付いた特殊容器など、多くの印刷会社が二の足を踏みそうなものばかりを手がけてきたんです。

真剣な表情でインタビューに応える小堀社長

 

―地元葛飾区とのつながりや今後の展望について聞かせてください。

小堀氏:当社は過去に2度、葛飾ブランド「認定技術」に選ばれました。2014年にはエコ箸などに使用されるSPS(シンジオタクチックポリスチレン)への印刷技術で、2022年にはスタックプリント技術です。地元の葛飾区との連携も大切にしていて、見本市や産業展などの地域イベントにも積極的に参加しています。柴又帝釈天の寅さんのような観光資源や商業の分野だけでなく、私たちのような工業部門、町工場からの発信でも葛飾区を盛り上げていきたいと考えています。これからも地域と一緒に仕事を続けてゆくことが私たちの目指すところです。

ラッキーカラーのオレンジTシャツには笑顔の小堀社長が


会社名 有限会社小堀加工所

業種   曲面への印刷において全国有数の技術を誇るシルクスクリーン印刷の専門会社

設立年月          昭和43年3月創業(法人設立 平成3年3月)

資本金              300万円

従業員数          役員1名、社員1名、パート従業員6名

代表者              小堀泰克

本社所在地      〒124-0004 東京都葛飾区東堀切3-12-1

電話番号          03-3603-2664

公式HP           https://kobori-kakoujo.com/

この記事の著者

大野秀敏

大野秀敏中小企業診断士

2023年中小企業診断士登録。国立大学教員兼診断士として、大学研究成果の事業化支援や産学連携プロジェクトなどに力を注いでいる。

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