世の中にないものは自分で作り、新しいことにチャレンジし続ける(株式会社開明製作所 インタビュー③)

未来に向かって会社を拡げていくための戦略

第一回では、事業概要と梅田氏の経歴、第二回では、事業承継の経緯や次代にバトンを繋ぐための育成・採用について伺いました。第三回目の今回は、今後の戦略と社長の思いを伺いました。

株式会社開明製作所 代表取締役 梅田八寿子氏

 

会社の飛躍に向けて

会社のユニークな取り組みとして、今年の抱負を題材に書初めをされるそうですね

梅田氏:書初めは従業員全員に毎年一人一枚書いてもらっています。内容は、業務に関係するものから個人的なものまでさまざまです。週に1回全体ミーティングを行う食堂に貼っているので、全員が毎週目にして、確認できる環境にしています。

梅田さんはどんな文字を書かれたのでしょうか

梅田氏:「拡」という文字にしました。「ひろげる」という意味で、今年は開明製作所を知っていただく活動に力を入れていこうとする意志を表しました。自社のホームページで「開明日記」という社員のブログも開始し、地元テレビ局にも取り上げていただくなど、積極的な広報活動を進めています。

梅田氏が書いた新年の抱負

展示会への出展も積極的に行っているそうですね

梅田氏:テクニカルショウヨコハマや、DSC協会(バリ取り、表面処理、洗浄)の展示会などに出展しています。今後は自社製品である袋穴洗浄機の営業のために、新たに洗浄機展の出展も計画しています。新聞やWeb記事の取材も積極的に受けて、自社をアピールするように努めています。

 

戦略を実現するための課題とは

現在の課題は何でしょうか

梅田氏:課題は、営業人材がなかなか集まらないことです。当社製品は、部品サイズとしては、指でつまむくらいのとても小さい部類で、個数も1つから生産する多品種小ロットの生産方式となります。

営業は見積もり対応がとても重要な業務です。いかにポイントを見落とさずに正確かつ早く見積もりと手配ができるかが腕の見せ所です。例えば、図面につじつまが合わないことが書かれていたとき、図面をもらった時に営業で気が付くか、製造部門まで流した時に気が付くのかでは、時間のロスに大きく差が出ます。

また、モノづくりの観点では、お客様のご要望に対して、何が難しいのか、どこを改善すればいいのか、という観点で提案型の見積もりができることも大切です。そのためには技術知識もある程度必要となります。

お客様に対して見積もりを提出するということは、お客様のご要望を受け入れるということになります。受け入れた後に誤りが発覚するなどでご要望を満たせないという事態になると、当社が大切にしている信頼関係が崩れてしまい、次の仕事をいただけないなど会社として大きな損失になります。

 

社内の人材を営業人材に充てる可能性はあるでしょうか

梅田氏:はい、最も可能性があるのは、自社の製造現場の社員を営業人材に育てることだと思っています。中途で採用する人材では、当社の特殊な商材を理解するのに時間がかかってしまいます。営業人材として有望な社員もおりますので、しっかり経験させて育てていきたいです。

 

壁を越えていく新たなチャレンジ

少子化やインフレなど、今後も製造業にとって厳しい環境が続きます。経営視点でどのように乗り越えていくのでしょうか

梅田氏:経営指針をつくり、時代の流れに合わせてどのように経営していくかを策定しています。

今後の少子化を踏まえ、人と機械がいかに協働していくかがカギだと思っています。機械でできるところを機械に任せ、人のウェイトを下げることをどのように進めていくのか、社員にどのように理解してもらうのか、頭を悩ませています。

例えば、製品を切削する刃物は昔ながらに自社で製作していますが、量産品であるチップに変えていく動きがあります。以前のチップは精度が粗いものでしたが、人手不足の意識の高まりから、最近は使い勝手が良いものが出てきています。

自社で刃物を製作するための機械があります。角度を調整して、何段階も削っていくために技術が必要な作業です。このような技術は職人にとって力量が試される重要な技術でしたが、人も時間も限られている中、刃物を作ること自体が必要なのか、チップを購入すれば十分なのかどうかを、検討することが大切だと考えます。技術を伝承していくうえで、大事なところはどこなのかを明確にしていかないと、いたずらに時間を費やすことで、自社の競争力がなくなってしまうでしょう。その見極めが経営者としてやるべきところだと考えています。

 

旋盤用の刃物を製作する年季が入った作業台。職人の技術が詰まっている。

 

梅田氏:モノづくりは品質あってのものです。人が入れ替わって代替わりがあった時に、すべて引き継ぐことができません。どうやってその大切なところを伝授していくか、どれだけのウェイトをかけていくべきなのかを考えるために、これまでの当たり前を柔軟に再検証していきたいです。

 梅田さんは、神奈川県中小企業家同友会 女性部会長として、自社だけでなく、神奈川県の中小企業を盛り上げようと精力的に活動しています。「世の中にないものは、自分で作る」という会社の精神に忠実に、前向きに、ひたむきに仕事に取組み、さまざまな困難を乗り越えてきた梅田さんは、新しいチャレンジとともに次代にバトンを繋いでいきます。

(撮影:齋藤 宏晃)


業種   精密機械部品製造業、産業機器販売

設立年月          昭和31年12月

資本金              61,000,000円

従業員数          18人

代表者              代表取締役 梅田 八寿子

本社所在地      神奈川県横浜市旭区市沢町575-8

電話番号          045-355-3434

公式HP           https://kaimei.co.jp/

この記事の著者

齋藤宏晃

齋藤宏晃

中小企業診断士 2021年中小企業診断士登録。神奈川県在住。3児の父。 得意分野は製造業×管理会計。日本の産業を盛り上げたい想いで、プロボノを中心に診断士活動を行う。

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