世の中にないものは自分で作り、新しいことにチャレンジし続ける(株式会社開明製作所 インタビュー②)

大変だった事業承継

前回の記事では株式会社開明製作所の事業内容と、代表取締役の梅田氏がパート社員として入社された当時の様子を伺いました。第二回目の今回は、パート社員から順調にキャリアアップしていく梅田氏がどのような経緯で先代社長から事業承継を行ったかを中心に伺っていきます。

株式会社開明製作所 代表取締役 梅田八寿子 氏

晴天の霹靂だった事業承継

パートとして入社された後、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

梅田氏:先代の社長は、中小企業家同友会などの社外活動が忙しく、基本的に会社にいない状態だったので、電話の取次ぎに困っていました。ただ、何度も同僚やお客様とコミュニケーションを続けていくうちに、モノづくりの視点で工程管理や機械の知識が身についていきました。そうしているうちに、お客様との納期管理だけでなく、新規の受注の話もできるようになっていきました。図面も読めるようになり、検査もできるようになって、NC(Numerical Control)の機械を動かす以外はできるようになりました。

パートとして9年ほど働き、2005年頃に事務部門の正社員となり、部下もできました。当時、航空宇宙関係の受注の話が始まったころで、当社にとって初めての試みだったこともあり、お客様のところにたくさん通ってさまざまな基準を学び始めました。品質のことを考えていくとても良い学びになりました。

その後、事務部門から、営業や生産管理を束ねる管理部長としてキャリアアップし、社長の次席としての専務を任されるようになると、肩書の重さを感じていました。同期との関係性も複雑になり、葛藤もありましたが、部下が少なく自分がやればなんとかなる、という仕事環境だったことで、妙なしがらみがなかったのが幸いでした。

大小さまざまな複合旋盤が揃う生産現場:長尺材料を補填するフィーダーが装着されている。厳しい品質基準を満たすために、整理整頓が徹底されている。

 

事業承継はどのようにすすめられたのでしょうか。

梅田氏:先代の社長からは、具体的な承継の話は全くありませんでした。パートのころから、会社の根幹にかかわるような相談を受けたことがありましたが、「こんなことを私に聞くのはおかしい」、と思っていました。今思えば、社長候補として見ていただいていたのかもしれません。社長は私の11歳年上でしたが、当時はまだまだバリバリ働かれていたこともあり、具体的な後継者の方向性を示されることはありませんでした。

そんな中、社長のがん罹患が発覚したのですが、それでも後継者の話が出ませんでした。いよいよ、体が大変になって、社内調整の結果、私を次の社長として指名し、2017年1月に社長交代となりました。その年の8月に先代の社長が亡くなり、とてもあわただしかったです。

私は先代の社長と伴走していましたが、「社長とは何ぞや」ということを学んできませんでした。ただ、実家が事業を営んでおりましたし、会社を運営する立場としての考え方が自然と身についていたところはありました。

当時、急な社長交代で引継ぎなど全くできていなかったので、訳も分からず突き進む手探りの毎日でした。いろいろなつらい思いもしましたが、ようやく今になって、慣れてきたという感じです。

 

事業承継に必要だったこと

社長交代当時に戻れるのであれば、会社からどのようなことをしてほしかったでしょうか。 

梅田氏:自分の右腕をどうするか考える時間が欲しかったです。管理部門の責任者として会社の運営に奔走していた中、会社の中核となる人材を育てるということを同時に考えられませんでした。入社同期の経験豊富な人材がいたのですが、当時、上司・部下の関係が逆転していたこともあり、なかなかパートナーとして組みすることができませんでした

先代社長は、外堀を埋めて、私を社長に指名してくれてはいたのですが、同僚の中にはパート従業員の女性が昇進していくことに違和感があったかもしれません。

 

現在は、ご自身で右腕を育てようとしているのでしょうか。

梅田氏:会社を次につなげるために、誰にバトンを渡すかを考え続けています。社員の育成計画について、先代社長が考えていたプランもありましたが、ゼロから考え直しました。

計画と実行を続ける中で挫折も味わっていますが、積極的に幹部社員を育てるというより、将来会社を背負っていきたいという気持ちを、社員が少しでも持てるようになればいいかなと、ゆるく考えるようになりました。

 

持続可能な会社運営のために

右腕を育てる大切さを伺いましたが、昨今は、安定的に従業員を確保すること自体が製造業の課題になっていますね。

梅田氏:当社の従業員は18名ですが、3分の2が女性です。その多くは、お客様への品質保証対応や、ご要望に応じた納品対応のための間接員を担っていただいています。

子育て中の社員も多く、短時間勤務など柔軟かつ多様な働き方に対応しています。障碍者支援や外国人の採用実績もあり、少しずつ採用の幅を広げていっています。またバリ取り作業では内職の方も活躍されています。私が子育て経験者ということもあり、状況を理解できるので、上手く業務が回るように多様な働き方を実現できていると思います。

最終仕上げ・検査工程。パート従業員が活躍している。


採用活動はどのように行っていますか 。

梅田氏:求人サイトに載せることもありますが、基本はハローワークでの求人募集をしています。

その他では、就労に困っている若者に対して積極的な採用を行っています。このような採用活動の結果、社長就任時の2017年当時は社員の平均年齢が50歳~60歳台でしたが、2024年では30歳中盤と飛躍的に若返りできています。

事業承継で大変な経験をされた梅田氏。その反省を生かして次代にバトンを繋げるための施策を講じています。また、専業主婦の経験から多様な働き方を許容し、持続可能な働き方を模索しています。次回は、未来に飛躍するための開明製作所の戦略を伺います。

(撮影:齋藤 宏晃)


業種   精密機械部品製造業、産業機器販売

設立年月          昭和31年12月

資本金              61,000,000円

従業員数          18人

代表者              代表取締役 梅田 八寿子

本社所在地      神奈川県横浜市旭区市沢町575-8

電話番号          045-355-3434

公式HP           https://kaimei.co.jp/

この記事の著者

齋藤宏晃

齋藤宏晃

中小企業診断士 2021年中小企業診断士登録。神奈川県在住。3児の父。 得意分野は製造業×管理会計。日本の産業を盛り上げたい想いで、プロボノを中心に診断士活動を行う。

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