技術への思いとITで切り拓くウォータージェット加工の未来(米山製作所 インタビュー①)

ウォータージェット加工の先駆者、米山製作所

ウォータージェット加工は、高圧水に研磨材を混ぜて素材を切断する非熱加工技術。歪みや焦げがなく美しい仕上がりが特徴で、薬品や油を使わないので環境にも優しい。米山製作所は時代に先駆けてこの技術に挑戦し、その市場を自ら作り出した。その歴史と成長を支えてきた、文系出身の2代目社長である米山俊臣氏の素顔に迫る。

インタビューで笑顔を見せる米山俊臣社長

水で切る技術、ウォータージェット加工とは

最初に、ウォータージェット加工とはどういったものか、教えてください。

米山氏:ウォータージェット加工は、天然の研磨材を混ぜた水を細いノズルから噴射し、素材を切断する技術です。水には高い圧力をかけており、そのスピードはライフル銃にも匹敵します。レーザー加工では熱による歪みや焦げが生じることがありますが、ウォータージェットはそうした影響がなく、素材の性能を損なわずに、断面も美しく仕上がります。また、薬品や油を使わないため、環境に優しいことも特徴ですね。

ウォータージェット加工機の全容

 

ウォータージェット加工はどういった用途に利用されるのでしょうか。

米山氏:弊社のお客様は、自動車・航空機・化学・建設・医療・研究機関など多岐にわたり、年間200社、累計では1000社以上との取引があります。弊社では、金属・樹脂・ガラス・セラミックス・複合素材など、幅広い素材に対応しており、おおよその構成は、樹脂・金属・ガラスがそれぞれ3割で、残りが複合材になります。当初は切断加工の依頼が中心でしたが、最近は断面観察や非破壊検査など、製品内部の確認・検査用途が増えています。

 

顧客との取引の流れを教えてください。

米山氏:依頼品は1個〜100個程度の小ロットが中心で、特殊車両の部品や装置の構成部品など、量産品とは異なる個別性の高い案件が多いです。定期的なリピート品もありますが、基本的には都度対応になります。単純な直線での切断でない場合は、プログラミングで型を作ったうえで、切断をします。

お客様とのコミュニケーションを重要視しておりまして、お客様のご要望を正確に把握するとともに、公差の説明を十分に行い契約書に落とし込んでから、実際に切断します。その甲斐もあり、今までクレームや返品はありません。

 

苦難を乗り越え、自ら市場を作り出す

ウォータージェット加工に出会うまでの経緯を教えてください。

米山氏:弊社はもともと、プリント基板用の金型を扱っていましたが、先代の父が公的機関からの経営支援を受ける中で、情報収集と発信の重要性を認識して、中小企業大学で世の中の動きを学びました。当時は、NC加工機やレーザー加工機による製造の自動化が進み始めた頃でしたが、父はあまり注目されていなかったウォータージェット加工に着目しました。まだ誰もその魅力を知らないような時期に、1億円以上かけて設備投資したんです。父は、時代の流れに乗るよりは、少し変わった面白いことに挑戦したいという思いがあったようです。

 

最初から、事業としてうまくいったのでしょうか。

米山氏:当初、既存事業であるプリント基板の切断加工も試みましたが、相性が悪く失敗に終わりました。他の用途を探そうにも、ウォータージェット加工の知名度が無い中で、その魅力を十分に訴求できませんでした。プラザ合意による円高環境で、メーカーがこぞって海外に生産拠点を移していく時代だったのも、逆風でしたね。既存事業の主要顧客だったプリント基板メーカーの製造拠点が海外に移転したのを受けて、ウォータージェット加工の専業となりましたが、売上は月4万円まで落ち込みました。事業はゼロからの再出発となったのです。

 

大変な門出だったのですね。そこからどのようにして、事業につなげていったのでしょうか。

米山氏:当時は技術開発も活発で、新素材や用途開発に対応する新しい加工法の必要性が高まっていました。ウォータージェット加工が潜在的な需要を掘り起こせるかを模索し、展示会に出展してみると、興味を持って下さる方もいらしたんです。実際の加工を行う中で、弊社としてもそのアピールの仕方を学んでいき、徐々にお客様を増やしていくことができました。

デザイン加工も対応可能(株式会社米山製作所HPより)

社長就任までの歩み、文系としての役割

米山製作所に入社されるまでの経緯を教えてください。

米山氏:私は法学部を卒業し、バブル全盛期の中で損害保険会社へ入社しました。当初から、いつか父の事業を継ぐという意識はあったのですが、入ったからにはしっかりと結果を残してから辞めようと思い、5年ほど経験を積みました。その後、父から改めて「事業を継いでほしい」と言われ、ものづくりの世界に入りました。

 

文系仕事から技術の色が強い会社への転身で、ご苦労はございませんでしたか。

米山氏:技術職とは無縁の人生だったので、最初は畑違いだと感じましたね。ただ、学生時代から、理系科目の方が得意ではあったので、素養はあったと言えるかもしれません。現場で社員と共に汗を流しながら学ぶうちに、ものづくりの面白さに気づきました。熱心にウォータージェット加工の理論を学んだ若手社員にも教えてもらいながら、技術を習得していきました。

 

営業職としてのご経験は、今につながっていると感じられますか。

米山氏:私、ガツガツした営業が得意ではなかったんですよ(笑)。だからこそ、お客様の課題に寄り添いながら、納得感を重視した営業を心がけています。単にお客様の言う通りに素材を切って終わりではなく、素材選びや設計段階からの相談にも対応した、提案型の営業スタイルを取っています。お客様との関係性も大切にしており、初回のご依頼からリピートにつながるケースが多いです。

現場で社員とコミュニケーションをとる米山俊臣社長

 

社長として、日々意識されていることはございますか?

米山氏:現場に足を運んで社員と近い距離で仕事をしたり、朝礼や勉強会を通じたコミュニケーションも大切にしながら、社員との信頼関係を築くようにしています。弊社には専任の営業担当がいないため、私自身が直接お客様とやり取りすることも多いのですが、自分が文系出身だからこそ、「技術者とお客様の橋渡し」が自分の使命だと考え、力を注いでいます。


業種   ウォータージェット受託加工業

設立年月          1980年(昭和55年)5月1日

資本金              15,750,000円

従業員数          7人

代表者              代表取締役 米山俊臣

本社所在地      〒190-1222 東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎東松原24-10

電話番号          042-556-2358

公式HP           https://www.yoneyama.co.jp/

この記事の著者

安井伸太郎

安井伸太郎中小企業診断士

ハウスメーカーにて財務と経営企画を経験した後、転職。現在は専門商社の経営管理部門にて、中期経営計画策定、管理会計、IR活動、投資案件推進等の業務を担当。自己研鑽の一環で中小企業診断士を目指し、2024年度試験に合格。中小企業診断士の勉強会等で知見の拡大や能力開発に取り組みつつ、自分に合った活動方針を模索している。

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