- 2025-3-4
- 取材・インタビュー
築き上げた技術力でお客様の期待に応える―創業から現在に至るまで
大阪府堺市、堺駅から徒歩15分の場所にある佐藤金属工業株式会社の工場を訪問しました。同社は、金型の設計から開発・試作・量産までを一気通貫で行う金属プレス部品メーカーです。主に自転車部品・自動車部品や幅広い業界の部品を製造しています。プレス加工の中でも、得意分野は板状の材料から複雑な形状に加工する板鍛造技術を用いた加工です。第一回目の今回は、佐藤金属工業株式会社の沿革、強みとする板鍛造加工の特徴についてお話を伺いました。

佐藤金属工業株式会社 佐藤社長(左)とご子息の佐藤貴志氏(右)
板鍛造加工により高品質・短納期・低コストの生産を実現
御社の事業についてお聞かせください。
佐藤社長:佐藤金属工業(以下、当社)では、金属プレス部品の製造販売をしています。自転車部品が約5割、自動車部品が約2割、残りの3割は住宅機器や建設機械の部品などに加え、堺の町らしく剪定鋏メーカーからのご依頼も請け負っています。1,000個/月~500,000個/月の多品種中量生産を行い、プレス加工だけでなく協力工場で、熱処理・表面処理・機械加工等を行い、完成品として納入することも可能です。生産数が多いのは順送加工(1つの金型で複数の工程を順にプレス加工する加工方法)です。自動化できないもの、生産数の少ないものは単発プレス加工で対応することにより幅広い加工が可能です。特に力を入れてるのが、順送加工での板鍛造加工です。板鍛造加工により工程を集約でき、お客様の高い要求にも、Q・C・D(高品質・低コスト・短納期)で応えることが出来ます。また、金型の設計・製作も自社で行っており、新しい加工方法の開発も行っています。
板鍛造加工について詳しく教えてください。
佐藤社長:板鍛造加工とは、板材をプレス機に投入しプレス金型内で局部的に板厚を変化させ、積極的に制御する加工方法です。増肉加工(板を厚くする)等の三次元成形、ダレの少ない精密せん断、複雑形状の加工などを実現できるの点が大きな特徴となっています。また、従来の機械加工・焼結加工・カシメ加工による生産をプレス加工に置き換えることで高品質な量産が可能になります。また、材料組織が切断されないため、溶接やカシメ、機械加工などと比べて強度が高く、信頼性を確保しやすい点も強みです。板鍛造加工により生産工程を効率化できるためコストダウンや品質向上、生産性の向上が期待できます。

板鍛造加工で作られた様々な形状の部品
プレス加工において、御社ならではの強みは何でしょうか?
佐藤社長:プレス加工会社の中でも、それぞれ特徴があって、得意分野が異なってきます。絞り加工を得意としているところもあれば、微細加工や高速プレスを得意しているところもあり、実に様々です。当社はプレス加工の領域では比較的分厚い材料の加工を得意としています。1㎜~3㎜ぐらいの材料の加工をする企業は多くありますが、それよりも分厚くなると対応できる企業数は格段に減ってきます。当社では6㎜までの加工を行うことができます。その厚みを加工するノウハウ、金型のノウハウ、専用の機械を持っています。1㎜を加工する機械と、6㎜を加工する機械はやっぱり違いますね。また、金型の設計と製作を内製化しているため、開発・試作・量産を一気通貫で行うことが出来る点も当社の強みです。図面だけではプレス加工の可否が分かりにくい場合でも、簡易的な試作金型を作り、実際に一度テストすることで、プレス加工が可能かどうかを目で見て判断することができます。

積み重ねられたコイル状の材料
創業77年の歴史―祖父の代から受け継がれる技術
創業から現在に至るまでの御社の沿革を教えてください。
佐藤社長:当社は1948年に私の祖父が創業した会社です。祖父は腕の良い金型職人でした。創業以来、金型の設計・制作も当社で行っています。当時は工場と家と寮が同じ敷地にあったため、私もよく工場で遊んでいました。1974年に法人に改組し、1980年には現在の所在地に移転します。私が当社に入社したのは27歳のことで、その当時は堺が「自転車の町」と呼ばれていたこともあり、製造していた製品の9割が自転車部品でした。私が41歳になった2002年に父から経営を引き継ぎます。そして、2005年にはISO9001を取得し現在に至ります。

プレス機を操作する従業員の様子
自転車部品だけででなく、自動車部品にも進出されたのはいつ頃なのでしょうか。
佐藤社長:当時はスポーツバイクの部品も一部ありましたが、大半が通勤通学用の自転車部品を製造していました。状況が大きく変わったのは1985年のプラザ合意がきっかけです。急激な円高になり、海外から安価な自転車が入ってきました。そんな状況から自転車部品メーカーは海外に進出し、どんどん国内産業の空洞化が進んでいったのです。お客さんがどんどん減っていき、何件か倒産した同業者もある、そんな時期でした。幸い円高と言われる少し前から、車の部品メーカーとのお付き合いが始まっていました。だんだんと付き合いが太くなって、何とか生き延びていました。
自転車競技を陰で支える高品質な金属プレス部品
実際にどのような製品で御社のプレス部品が使われているのでしょうか?
佐藤社長:当社のプレス部品は、スポーツバイクのような高付加価値な自転車の変速機や駆動部に使われています。コンマ何秒を争うロードレースで使用されるため、耐久性、機能性、軽さが求められます。私自身も自転車競技をやっていた時期がありますが、当時の変速機は6段変速だったのが、今は12段変速になっています。それだけ高い精度が要求されますし、外観への要求も非常に厳しいです。メーカーからの要求は年々厳しくなってきています。

ディスプレイに展示される部品の数々
ISOを取得されたのは、お客様の求める水準が高まってきたことが背景にあるのでしょうか?
佐藤社長:2000年頃から、取引先がISOに準じた監査を行うようになってきました。「どんなところで加工をするのか?」「どんな風に管理しているのか?」と、当社に対しても監査が入るようになりました。ISOに沿った監査になるので、もう取るしかないと考えました。2004年にキックオフをして2005年に取得しました。
ISOを取得する上でどんな苦労がありましたか?
佐藤社長:これまで町工場だったので、阿吽の呼吸でやってきました。「これやっといて」と口頭で指示を出せば良かったのです。ISOを取得するとなると、ちゃんと指示内容を書いて、いつまでに、いくつ作るか生産指示を出す必要があります。これまで染みついてきたやり方を変えないといけないのが、一番大変でした。従業員からも「こんなものいちいち書かなくてもいいんじゃないか」と反発がありました。それをしないと会社が潰れるという状況でもなかったのたで、「今のままでもいいんじゃないか」という声も出ました。それでも、世の中の流れにあわせていかなければ、いずれ仕事が取れなくなると考え、必要な取り組みだと判断したんです。
ISOを取得したことで変化はありましたか?
佐藤社長:ISOを取得するまでは町工場の延長のような形態でした。品質管理も生産指示も個人の勘やコツに頼ったやり方をしていました。ISOを取得するにあたり、しっかりと品質方針を決めて、生産現場を改善する必要がありました。部署ごとの目標を設定し、設定した目標を達成できているか、達成に向けて活動しているかどうか、毎月PDCAを回して改善に努めています。ISOを取得したことで業務プロセスの標準化が進み、無駄やばらつきの減少につながりました。ISO取得は苦労もしましたが、会社が組織として成長するいい機会になったと思います。
会社名 佐藤金属工業株式会社
業種 金属プレス部品メーカー
設立年月 1974年7月
資本金 2,000万円
従業員数 30人
代表者 佐藤隆幸
本社所在地 大阪府堺市堺区神南辺町5丁152-5
電話番号 072-227-7715