危機が生んだ自社製品「0から1を生み出す」小さな町工場の大きな挑戦(西川精機製作所インタビュー③)

制約を取り払う発想の転換が切り開く新たなフィールド

第二回では、新たな市場の発見と社外連携、社内の意識改革について紹介しました。第三回では、設備投資と人材育成、展示会への取り組みと、未来に向けた展望について話を伺いました。

株式会社西川精機製作所 代表取締役 西川喜久氏

 

新しい技術への積極投資と人材育成

設備投資についてはどのような方針をお持ちですか?

西川氏:制約を取り払うための投資は積極的に行っています。「必要最小限の設備」にこだわると将来の伸びしろを制限してしまいます。例えばマシニングセンタの5軸マシンを導入する際に、販売店から「御社の製品ラインナップなら3軸で十分です。1,000万円安くなりますよ。」と、セールストークとして提案されることがあります。だけど、それだと沼にはまっていって、「それしか出来ない会社」になってしまいます。そうした制約のせいでチャレンジングなことを出来ない中小企業には魅力がありません。

今は3軸マシンで事足りるけど、あえて5軸マシンを選んでチャレンジすることで、今までなかったフィールドの仕事も獲得できるチャンスが得られます。そうしたプラスアルファのためのイニシャルコストはしっかりと出していこうという方針です。

実際に導入による効果はありましたか?

西川氏:機械を買ってしまえば使わなければいけないという側面があります。その上で、これまで3軸だったらできないとお断りしていたような業務でも、5軸なら出来るんじゃないかとチャレンジが生まれます。そうして製品の現物が出来ると、「こんなものが作れました。」と実績を示せるようになって、今度はそれを営業ツールとして持っていけるわけですよね。そうして新たな流れにつながります。

複雑な加工を可能にする5軸工作機械

 

新技術に対応するための人材育成はどのようにされていますか?

西川氏:設備やソフトウェアの導入で、半ば強制的にやらないわけにはいけない状況を作ります。でも新技術は社内で教えられません。社内のOJTやOFF-JTではトレーニング出来ないわけです。そのため、メーカーさんに技術指導者を付けてもらう前提で導入します。
例えば3次元CAD/CAMの導入では、メーカーさんに1カ月間、技術指導者に来てもらう条件で見積をもらいました。そうでなければやれないですよ。これまで2次元CADで仕事をしてきた人間が、ある日突然3次元で書けと言われても出来るわけがない。なので、自社で教えられない技術は、外部の技術指導を必須の条件としています。

切削加工後のアーチェリーハンドルと西川代表

 

展示会と新たな市場の開拓

最近の展示会ではどのような取組みに力を入れていますか。

西川氏:展示会では体験型のデモンストレーションが効果的です。直近では子供でも安全な「エンジョイアーチェリー」を開発しました。これは矢に金属を使っていなくて、先端はフェルトなので安心して遊べます。この「エンジョイアーチェリー」の展示では、実際に来場者に体験してもらうことで、「これなら自分にもできる。」と実感していただける機会になりました。先日の展示会では約200人の方に体験していただき、大盛況でした。

体験出来た子供は楽しかったでしょうね。

西川氏:日本の99%の人はアーチェリーというものに造詣がないんです。日本語としては知っていても、実際触ったことも見たこともない。それなら99%のフィールドを耕した方がいいじゃないですか。
「エンジョイアーチェリー」なら小学生はもちろん、高齢者の介護施設で体を動かすリハビリテーションにも使える。今までは「アスリートに提供しなければならない」という考え方に凝り固まっていましたが、アーチェリーに始めて触れた方が楽しんで体を動かすという成功体験ができれば、そこで生まれる市場は大きいですね。

超小型モビリティの出展もされていますね。

西川氏:最近、東京都のHTT推進課からの要請を受けて協力しています。東京都の脱炭素を推進する部署ですね。そのHTT推進課の展示会ブースで当社のカーボンフリー超小型モビリティを展示してもらいました。展示会場でもやはり特徴的な見た目でとても目を引いて好評で、多くの方に見に来てもらえるきっかけになったようです。HTT推進課の方にも大いに喜んでもらえました。今後の東京都のイベントでは、実際に乗っていただける試乗会を予定しています。
この超小型モビリティは、これからの水素エネルギーの普及への貢献になりますし、特定小型原動機付自転車の規格で、免許を持っていない多くの方々にも活用いただける可能性があります。

カーボンフリー超小型モビリティ(株式会社西川精機製作所提供)

未来への展望

今後も新しい分野の製品が生まれそうですね。

西川氏:色々なところでご縁をいただいて話をすることが新しいきっかけにつながります。例えば東京都の振興公社の中でも様々な課があって、それぞれ関心ごとが違うし、あとはメディアの方、技術的なことなら産業技術研究所の方、あるいは他の中小企業の方など。そんな時に未来に向けたファンタジックな話をすると、確かにそうだなと言いつつも、「でもこうなのでは?」という意見が出ます。その「でも」の意見が大事ですね。ディスカッションするなかで、そういう方々と未来へと収斂するきっかけを探しています。

最後に今後の取組みを教えてください。

西川氏:いま一番ホットなのは「エンジョイアーチェリー」ですね。楽しんで自分で体を動かして得られる成功体験がスポーツの喜びです。アスリート以外にも大きくフィールドを広げていきたいです。
実は先日、「エンジョイアーチェリー」の体験会で夢中になって遊んでくれた工業高校の学生さんのうちの一人が求人票を見て来てくれました。「こんな面白いことをやっている会社で働きたい」と思ったみたいです。それだけ楽しんでもらえたことが伝わってきて私たちも嬉しいです。「エンジョイアーチェリー」体験会では、友達が友達を呼ぶみたいな感じで集まってくれて楽しそうにしていましたね。
若い彼らが技術を引き継ぎ、さらに発展させていってくれることを期待しています。

展示会にてエンジョイアーチェリーを楽しむ来場者(株式会社西川精機製作所提供)


業種   精密機械加工業

設立年月          1960年6月

資本金              1000万円

従業員数          8人

代表者              西川喜久

本社所在地      東京都江戸川区中央 1-16-23

電話番号          03-3674-3232

公式HP https://nishikawa-seiki.co.jp/

この記事の著者

岡本崇志

岡本崇志合同会社オスカーワークス 代表社員 中小企業診断士

演出、CGディレクター、プロデューサーとして映像分野で長年活動。CM、アニメ、企業VP、展示会映像、プラネタリウム、VR映像にて演出、制作、プロモーションを経験。 現在は、経営コンサルタントとして映像・写真などビジュアルをを用いた販売促進、マーケティング支援、補助金支援などを行っている。

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