- 2021-5-27
- 経営全般
中小製造業が建設工事発注時に気をつける5つの基本ポイント
日本の町工場は1965年から始まった「いざなぎ景気」以降に創業した企業が多く、工場の築年数は60~70年と老朽化が進んでおり、工場の改築・移転及び立替えは大田区の多くの町工場でも重要課題の一つになっています。
そこで本記事では、小規模・中小製造業が工場の改築・移転及び立替え工事の発注時に気を付けるべきポイントについて、中小製造業の工事発注コンサルティング実績が多数ある株式会社ナックスの鈴木宏康さんにポイントをお話し下さいます。
日本の1965年以降の高度経済成長期あたりに多く建築された築40年~50年を超える工場建物の老朽化が深刻になり始めています。そこで今回は、「老朽化した工場の建替えや、大規模な修繕やリニューアル工事を行いたい。」、「工場移転を計画している。」など、製造業を営まれる企業様が建設工事の発注をする際に気をつけていただきたい基本的なポイントについてお伝えします。
建設工事会社の言いなりにならない
「自社に建築のノウハウや知識がないから全て任せてしまおう。」と建設工事会社からの提案をよく検証せず、言われるがままゴーサインを出してしまうケースは大変危険です。なぜならは建設工事というのは多くのBtoB向け製品・サービスと同様に適正金額がわかりづらいという特徴があります。そのため、建設工事会社も営利を求める企業ですから、少しでも多くの売上や利益が立つようにと考え、あの手この手で策を講じてきます。そして、”発注者側に知識がなく自社の言いなりの状態である”と認識されてしまうと、過剰な工事範囲や不当な工事単価の提案・見積を出してくるリスクが高まります。このような中で、よくよく中身を検証せず発注してしまい、不必要な工事をしたり、相場よりはるかに高い価格で工事発注をしてしまったという事例を本当によく目にします。
こういったことにならないよう、発注者はわからないながらも可能な限り建設会社の提案・見積を確認検証し、わからないことにはしっかりと説明を求めるなど、綿密な打ち合わせを重ねた上で建築プロジェクトを進めていく必要があるでしょう。
工事内容や規模に見合った、適切な建設工事会社に相談をする
ひと口に「建設工事会社」といっても、それぞれの会社によって専門や得意・不得意分野が大きく異なります。例えば新築工事においては、木造建築に強い会社、鉄骨造に強い会社、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造に強い会社など、建物構造の違いで会社によって得手不得手がある場合があります。また、修繕やリニューアル工事においても、防水・外壁の専門業者もいれば、電気設備の専門業者、空調専門業者など、様々な専門工種・業者がいます。
工事発注においては、当然ですが皆さんが行おうとしている工事の種類や規模感に合った適切な建設工事会社に発注すべきです。逆に言うと工事内容や規模感に合わない(又は得意としていない)先に依頼をしてしまうとスケジュール通りに工事が進まなかったり、完成した建物に不具合が多かったり、金額が割高であったりといった、リスクが発生する可能性が高くなります。
工事の発注をする際は「その建設工事会社が工場や倉庫の工事にノウハウや経験値がどれくらいあるのか。」、「依頼したい工事内容を得意としている会社なのか。」などを過去の実績などを取り寄せた上で十分に検討し、適切に判断していきましょう。
複数の会社から相見積を取得する
工事にあたって1社だけからしか見積を取得せずに(複数社からの相見積を取らずに)、発注をしているケースをよく目にします。「昔からの付き合いだから。」、「誰々さんの紹介だから。」、「担当者が良い人で親身になっていろいろと相談に乗ってくれているから。」など、理由は様々です。
しかしながら、当然ですが1社からしか見積を取得しないとなると、比較検討ができず正しい判断ができない可能性が高まります。また、単独見積であることが建設工事会社側に伝わってしまうと、「競合他社がいないから高い金額でも受注できるだろう。」と割高な見積を出されてしまう可能性が高くなってしまいます。
大きな金額になる工事であればあるほど、最適な内容・価格で工事ができるように複数社からの相見積を取得して比較検討・検証ができるようにしていきましょう。
工事範囲・内容を明確にする
工事内容や規模感にあった複数の建設工事会社に相見積を取得する際にも、注意すべき点があります。中でも特に重要なのは、「依頼する工事の範囲や内容を明確にしておくこと。」です。依頼すべき工事範囲や内容を曖昧なまま各社に見積依頼をしてしまうと、各社からバラバラの提案が出てきてしまい、正しい比較検討・判断ができなくなってしまします。
そのようなことにならないよう、「何をどの程度の内容で建築・工事したいのか。」を可能な限り明確にした上で見積依頼をしていく必要があります。特に、大型の新築工事や大規模な修繕工事であれば、必要に応じて設計と施工を分離するなど新築・修繕すべき工事範囲と仕様(内容)を明確にして、各工事会社から同一内容での相見積取得をする、といった体系化した工事発注方法を採用することなども検討すべきです。
専門家・アドバイザーを入れる
以上①〜④が、建設工事の発注をする際に注意すべき基本的なポイントとなりますが「建設工事発注をした経験がほとんどない」、「建替えや修繕の必要性は感じるが何から手をつけていいかわからない」、といった状況の場合には専門家(建設工事アドバイザー)に相談してみるということも、ひとつの手段としてお勧めします。
しかしその際にも、その専門家は①〜④の視点を正しく指摘してくれるか、また仮にその専門家に依頼をした際には自社内にノウハウの蓄積がどれくらいなされるかなど幅広い観点から十分に検討した上で、建築プロジェクトを進めていく必要があります。
また、工場の建替えプロジェクトなどは事業全体への影響がかなり大きくなり、調整すべき事項や検討項目も広範となるため、建築のアドバイスやノウハウだけではなく、予算計画や資金調達などのアドバイスももらえる総合的な体制づくりができるかどうかもポイントとなるでしょう。
工場建替えや大規模なリニューアル工事は、建物そのものだけではなく、予算や期間・チームづくりなど含めた、会社全体として取り組むべき大きなプロジェクトとなります。可能な限り経営者様ご自身が主導して、プロジェクトの推進を図っていかれることをお勧めします。