- 2021-10-21
- ものづくり営業・販売促進
下請け専門の金型製造業がカテゴリーキラー戦略に挑戦。熾烈な価格競争から抜け出し、年商がに! 《受託事業のカテゴリーキラー化編》
本掲載は3回にわたって、「町工場が生き残る、1つの戦略」についてお伝えします。
第1回目は、まず経営をしていくにあたってのベーシックな考え方の部分に光を当ててお伝えしました。
第2回目と第3回目は、下請け専門だった金型製造業が、「カテゴリーキラー戦略」をもとに受託事業のカテゴリーキラー化を行い、その後、自社オリジナル商品の開発に成功した実例についてお伝えします。
※「カテゴリーキラー」とは「競合他社を圧倒する差別化された強い商品・サービス・事業のこと」
第2回目の本記事は、
「下請け専門の金型製造業がカテゴリーキラー戦略に挑戦。熾烈な価格競争から抜け出し、年商がに! 《受託事業のカテゴリーキラー化編》」
と題し、自分たちが思っているほど、顧客には自社の価値が伝わっていないこと、そして、しっかりと整理された「強み」を原資に、商品・サービス、事業、会社の魅力を「見える化」することが非常に重要であることをお伝えします。
下請けも未来を見据えた長期的な取り組みが必要だと気が付く
「おたく、それもできたの? なんで早く言ってくれないのよ。じゃあこっちも、あわせてお願いするよ」
これは、創業50年を越える金型製造会社のF社長が、もう何年もお付き合いのあるお得意様から言われた言葉です。
「受託事業のカテゴリーキラー化」を行ってすぐの嬉しい出来事でした。
F社長は、リーマンショックで経済が揺らぐのを目の当たりにした頃から、下請け中心の製造業である自分達も、未来を見据えて何かをやらなければいけない、いつか生き残れなくなる時が来ると感じていました。
さらに、丁度その時期にF社長の会社は、同じ金属製造業で世代交代の経営人材がなく、存続が出来なくなった会社2社を吸収し、自社を含む3社を経営統合していました。
今までは金型製造に特化してその技術力で売っていたのですが、3社が合わさり様々な金属加工が出来るようになった反面、顧客からしたら何屋かわからなくなってしまっていたのです。
そこで受託製造業には一見関係のなさそうなカテゴリーキラー戦略を取り入れることで未来への突破口が開けるのではないかと考え、当社のカテゴリーキラーの戦略作りました。その後、ご縁あって当社が受託事業のカテゴリーキラー化について指導をすることになりました。
強みを「見える化」して、発信することが「受託事業のカテゴリーキラー化」の第一歩
最初の課題は、3社統合で特徴の薄くなった会社を、顧客や市場に対してどう差別化していくかです。
そこでまず着手したのが、会社の強みの整理です。
会社の強みの整理は、個別の商品やサービス、技術、事業など、取り組むテーマに関わらず必ず行うとても重要な分析です。
F社長の会社の強みの分析を進めると、大きく3つあることが分かりました。
1つめは、幅広いモノづくり。2つめは、一貫生産可能な体制。3つめは、一貫生産によるスピード感、でした。
この3つは、実は先の合併で3社が集約したことによって可能になった新たな強みでした。
当時F社長のいた業界では、海外生産のトレンドが一般化し、顧客の加速するニーズの変化に対応するために、開発から量産までを一貫生産でスピード化する動きが出始めていました。
そこで、これに加えて元来自信を持っていた金型の技術力をベースに、会社の新たな方向感を定めました。
そして、その姿勢を明確にするために、コーポレートメッセージとして発信することにしたのです。
それが、「アイデアと技術力のものづくりパートナー」です。
発注先から言われたことをその通りにこなすだけの下請け製造を超越して、長年培ってきた技術力と、市場を見据えた発想で、アグレッシブにものづくりに取り組む会社である、と定めました。
これは、顧客へのメッセージであり、また3社集約でまとまりきれていない組織を方向付けるメッセージでもありました。
「受託事業のカテゴリーキラー化」を推進するための中核となるメッセージで、当社の指導では、とても重要視しているところです。
そして、このメッセージの開発は、先代から受け継いだF社長の、最初の大きな仕事になりました。
「受託事業のカテゴリーキラー化」で、思ってもみなかった反応が・・・
完成したコーポレートメッセージを、早速ホームページやパンフレットにのと同時に、会社のCI(コーポレートアイデンティティー)のリニューアルも行ないました。
具体的には、会社のロゴマーク、ホームページやパンフレットを飾るメインビジュアルやイメージカラーなどを開発し、顧客接点のシーン全てで統一された印象を与えられるように改定しました。
特にホームページは、今までは会社案内のただのデジタル版であったところを、求める顧客を意識した課題解決型の印象に大きく変化させたのです。
もちろん課題解決を求める顧客とかかわりのある言葉でSEO対策も施しました。
するとすぐに、冒頭のとおり馴染みの顧客から「おたく、それもできたの?」と驚きの言葉をかけられ、思わぬ追加発注をもらったのでした。
このことは、いかに自社の強みを身近な顧客にも伝えられていなかったかの現れです。
自分達では、「こんなこと出来て当たり前」、「大した技術ではない」と思っていることでも、端から見れば、他にはなかなか真似できない、唯一性の高い強みであることがよくあります。
そのため、自身で強みをしっかりと整理するのと同時に、第三者に意見を聞いてみることをお奨めします。それが自社の顧客だったらさらに良いヒントになる場合が多くあります。
課題解決の糸口を求めた見込客から、毎日問い合わせが来るようになる
さて、コーポレートメッセージを打ち出して、CI改定を一通り終えてから、徐々に効果が出てきました。
月に1件位だった問い合わせが少しずつ増え続け、しばらくすると毎日問い合わせが来るようになったのです。
しかも、以前は当て馬のような相見積もりの依頼が多かったのですが、今は、ものづくりにおける課題解決の糸口を求めてくる、前向きな問い合わせがほとんどになりました。
自らが求める顧客にメッセージが届くような「受託事業のカテゴリーキラー化」を行ったことで、問い合わせの質も大きく変わったのです。
そして、その中でも2~3割は受注するようになりました。
このような取り組みは、ただ単にホームページや会社案内などのデザインを、綺麗にするものと勘違いされがちですが、会社の強みの整理からターゲット市場の選択を経て、それを魅力的に表現するまで、ある程度の時間と労力が必要です。
一見遠回りのように思えますが、今回の結果にあるようにその後の見込客の集客を、確実に効率化できます。
F社長の会社は、今現在も受託の仕事は増え続け、「受託事業のカテゴリーキラー化」が売上に大きく貢献しています。
そして、新たな挑戦として、この経験と利益をベースに、さらなる経営の柱となる、自社オリジナル商品づくりに挑戦しました。
町工場が受託専門からの脱却を見据えて、大手に負けない攻めのものづくりを始めたのです。
このドラマチックなお話は、第3回目、「個別商品のカテゴリーキラー化編」でご紹介します。