「見えないところで世界を支える極小ねじ技術—共栄ファスナーの挑戦(共栄ファスナーインタビュー②)

見えないところで世界を支える極小ねじ技術—共栄ファスナーの挑戦

精密ねじメーカーというと、最初に思い浮かぶのは高度な機械設備や微細寸法を扱う技術力だろう。しかし、共栄ファスナーの強みは、それだけでは語り尽くせない。短納期への対応力、柔軟な相談姿勢、取引先企業の担当者との距離感、そして“困ったらまず聞いてみよう”と取引先に思わせる関係づくり。同社の強みは、人の動きと技術の動きが一体化した、町工場ならではの総合力である。その強みを支える仕組みと、一方で見えてくる課題について川添氏にお話を伺った。

共栄ファスナーの強み

-御社が選ばれ続けている理由は何だと思いますか?

川添氏:正直なところ、はっきりは分かりません。ただ、やはり一番は納期への対応力だと思います。品質(Q:クオリティ)も価格(C:コスト)も合格点であることは当たり前で、そこをクリアしたうえで勝負ができるのは納期(D:デリバリー)なんですよね。

当社には「図面をもらってから1〜2日で1万本つくる」という文化が根づいています。もちろん、金型と材料が揃っていることが前提ですが、相談されたらまず“できる方法”を考える。これが評価につながっているのだと思います。

 

-短納期を可能にする秘訣は何でしょうか。

川添氏:一番大きいのは、“工程を止めない段取り”です。圧造のセットに半日、転造のセットにさらに半日かかるのですが、この間に別工程の準備を進めるなど、現場同士の連携がとても重要です。材料をまっすぐにし、圧造工程が調整に入ったら転造工程と打ち合わせをはじめ、製品に関わるすべての担当と加工をしながら調整していく必要があります。こうした地味な積み重ねが、短納期を支えています。

ねじ製造用の金型

 

ねじは製品を形づくる部品の中でも、もっとも後工程で必要になることが多い。部材や機構設計が固まり、必要本数が確定した段階で「最後にねじの手配を」となるため、「あと一ヶ月で量産だから急ぎでほしい」という依頼が珍しくない。そうした状況下でも断らず、工程を止めず、むしろ“どうすれば間に合うのか”を共に考え続ける姿勢こそ、同社の強みになっている。

 

HDD向けねじの品質要求と苦労

-短納期以外で、特に苦労した経験はありますか。

川添氏:やっぱり大量生産するなかでいかに品質を確保するかに気をつけていますね。HDD向けねじは特に厳しくて、異物管理は0.2ミクロンレベル。世界中のHDD内部のゴミを全部集めても“サッカーボール1個分”くらいと言われています。そもそもHDDの読み取り精度は「ジャンボジェットを地上30cmに飛ばすくらい精密なもの」とも言われます。そんな世界で、少しでも異物が混じると読み取りがダメになる。

締結力も重要で、6本のねじすべてが同じ力で締まらないとディスクが斜めになり性能が落ちる。そういう要求を満たすため、量産中は常に緊張感があります。

 

-不具合については、どのような対策をされていますか。

川添氏:ロットを追える仕組みを整えています。当社は100万本を10ロットに分ける運用をしていて、どこに異常があるのか切り分けできるようにしています。不具合が出ればすぐに該当番号のロットを除外し、必要量は別で手配しなおします。それでも、100万本単位の検証は大変です。

 

設計変更に左右される、ねじの宿命

-携帯電話向けの意匠登録品の開発時にも苦労があったそうですね。

川添氏:某大手メーカーの折りたたみ携帯向けにOリング付きタッピングねじを作って意匠登録をした時期がありました。防水のためにOリングが抜け落ちない特殊構造にしたのですが、携帯の設計が変わり、防水が筐体構造で賄われるようになると需要がなくなりました。製品設計が変わると、ねじの役割もあっという間に変わってしまいます。

 

-スマートフォン設計の変化にも影響がありますか?

川添氏:ありますね。一時期は「スマートフォンをねじ無し構造に」という流れがあったのですが、修理性の観点から完全にはなくならないと思います。ただ、初期モデルでは50本以上使われていたものが、近年はかなり減っています。ねじメーカーとしては、こうした設計トレンドの変化に敏感でいないといけません。

様々な形状の金型を保有し多様な需要に応える


共栄ファスナーの強みは技術だけではない。営業を担当する川添氏は、自らを「三河屋さん(漫画「サザエさん」に登場する定期的に得意先を周る酒屋)のような御用聞き」と表現する。新規も紹介も、まずは丁寧に話を聞き“困ったときはまず相談してもらう”関係性を築く。それは町工場が生き残るための知恵であり、信頼を支える土台でもある。

 

「御用聞き営業」が生む信頼

-営業活動ではどのような工夫をしていますか?

川添氏:社長と二人で動いています。社長は77歳ですが新規が好きで、以前は飛び込みもしていました。今はインターネットで調べて電話でアポイントを取り、まずはお話を聞く。私は顧客と“困ったら隆に聞けばいい”と思ってもらえる関係をつくることを大事にしています。

 

-展示会に出展されたことがあるようですが、反応はいかがでしたか?

川添氏:「テクニカルショウヨコハマ2025」に海老名商工会議所と共同出展をしましたが、カラーメッキを施した極小ねじを並べると「ビーズですか?」と驚かれました。

子ども向けのイベントでもカラーねじを瓶に詰めて持ち帰ってもらうと大好評で、行列が途切れないこともありました。見えない世界を“見える化”することで、ねじの面白さを伝えられるのが嬉しいですね。

テクニカルショウヨコハマ2025出展時の様子

技術継承・デジタル化・調達環境の課題

-現時点での課題はどのような点でしょうか。

川添氏:まずは記録のデジタル化による業務効率化ですね。現場には手書きの管理票が多く、情報が蓄積されているのに、十分に活かしきれていません。本当は工程データと検査結果を紐づけ、一元管理したいところです。

また人材の確保も大切ですが、ねじの加工は細かい作業なので人によって向き不向きがはっきり出ます。向いている人は3〜6ヶ月で機械を扱えますが、観察が苦手な人は伸びづらい。とはいえ退職が重なると技術が途切れるため、年齢バランスを意識した採用を行っています。ここは今後も重要なテーマだと考えています。

 

-取引環境の変化で感じる課題はありますか?

川添氏:あります。大手メーカーはリスク分散のため複数社からの分散購買を進めており、当社への発注割合が大きく上下します。コロナ明けには発注がピーク時の3割になったこともありました。また、最近は「世界情勢に合わせた前提で見積もりを」といった依頼もあり、調達環境が変わりつつあります。

検査に用いる計測具

短納期・高精度・大量生産というプレッシャーの中で、共栄ファスナーは“まずノーと言わない”姿勢を貫いてきた。技術的に難しい要求が来ても「どうすれば実現できるか」を考え、取引先と共に道を切り開く。こうした姿勢には、思わず応援したくなる町工場の真髄を感じる。


会社名 株式会社共栄ファスナー

業種   精密・一般・特殊ねじ、コネクター・カシメピン、電子用接点の製造

設立年月          1996年2月

資本金              1,000万円

従業員数          18人

代表者              川添民男

本社所在地      神奈川県海老名市上郷四丁目4番32号

電話番号          046-236-0010

公式HP           https://kyoei-fastener.com

この記事の著者

沖忠彦

沖忠彦中小企業診断士

東京都中小企業診断士協会城東支部、足立区中小企業診断士会所属。 補助金申請支援や創業支援などを通じて地域の中小事業者支援に取り組む。

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