ケーブルカーの命、強靭なケーブルアームを削り出す取り(有限会社東蒲機器製作所)

多くの工場が敬遠する「不揃いな素材」という難敵に挑むプロフェッショナル

東京都大田区蒲田に本社・工場を構える有限会社東蒲機器製作所は、創業から長年にわたり、土木や鉄道インフラを支える金属加工を専門としてきた技術者集団です。
同社は一般的な鋼材のみならず、ニッケルクロームモリブデン鋼などの難削材や、形状がいびつな鍛造品・鋳物の追加工(除去加工)を得意とし、他社が敬遠する面倒な仕事にあえて挑むことで、業界内外から高い実績と信頼を重ねてきました。
また、単なる合理化やマニュアル化に頼るのではなく、データ通りにいかない不揃いな素材からでも確実な精度を導き出すモノづくりを維持し続けています。
今回は、そんな同社の飽くなき職人魂と、素材への深い理解力が詰まった「匠の一品」を紹介します。

ケーブルカー作動用アームのサンプル(左)と完成品(右)

 

「どんな難しい部品からも逃げない」―超硬質・異形状のアームに宿るプライド

今回ご紹介する「匠の一品」は、他社が図面を見ただけで門前払いした、異形状・難削材に対する高精度切削品です。通常、硬く粘り気のある熱処理材は刃物を激しく摩耗させ、さらに歪んだ鍛造品は加工基準を出すことすら困難を極めますが、同社では長年のノウハウと地道な工夫により、極めて厳しい精度・品質で仕上げることが可能です。今回は、同社の技術の幅広さと段取りの妙を象徴する、「ケーブルカー作動用アーム」を紹介します。これは特定の汎用部品ではなく、職人の挑戦心と対応力を証明する「名刺代わり」の逸品です。 

手渡された重厚な金属ブロック。見た目の形状はどこから刃物を当てたのか分からないほど複雑で、持ってみるとずっしりとした重みが伝わってきます。実はこれは、使われる用途も加工の難所も極めて過酷なインフラの心臓部なのです。

まず、このアームに求められるのは、何万キロと走りながら太いワイヤーケーブルを「ガツン」と強固に掴み続ける高い耐久性です。そのため、材質には衝撃に対応する硬さと、絶対に亀裂が入らない粘り気を両立させた「ニッケルクロームモリブデン鋼」の熱処理材が使われています。靭性が非常に高いため、通常の刃物では削りにくく、加工には非常に時間がかかり、工具がすぐに痛んでしまう非常に硬い素材なのです。 

次に形状の難点として、ケーブルをつかむ内側の面が「56R」と「58R」という、微妙に異なる2段階の半円(R形状)の組み合わせで構成されています。しかし、非常に厄介なことに、その半円の加工基準となる中心点が製品の形状内にないのです。 

加工基準点(中心点)が製品外に位置する形状がわかる

 

そして、表面は真っ黒な「黒皮」に覆われており、全体がゴテゴテとして直角も出ていなければ寸法もバラバラ。自動機で削るためのプログラムを組むのが非常に面倒なため、多くの近代的・効率的な工場からは敬遠され、断られがちなのです。しかし、髙橋社長は言葉を強めます。「それぞれ形状も硬さも図面を超えた難解さですが、図面にその材質と精度が指定されている以上、逃げるわけにはいきません」 

東蒲機器製作所では、この芯なき素材に対し、まずは熟練職人が汎用機を使って手のメモリ感覚で「一発剥く」捨て加工から対応します。独自の治具に品物をうまくくっつけ、完全に直角が出た綺麗な基準面を自らの手で作り出すことで、マシニングセンターへの正確なチャッキングを可能にするのです。」

さらに、1台の機械だけでは段取り替えのロスが大きく納期に間に合わないため、マシニングセンター2台を含む「計4台の加工機」を流れるように渡り歩かせる緻密な“段取りリレー”を構築。試作を重ね、最後にリーマを使って仕上げたピン穴へ、本物の軸サンプルピンがガタつきなく「ストン」と吸い込まれるように納めてみせます。まさにプロの対応力が凝縮された製品と言えます。

 「どんな産業のどんな難しい部品でも、同じ精度で仕上げてみせる」という、町工場の砦としての自負とプライドが、このひとつのケーブルアームには静かに宿っているのです

この記事の著者

中坪孝太

中坪孝太中小企業診断士、1級販売士、豆腐マイスター、ソイオイルマイスター

東京都中小企業診断士協会所属。広報部、青年部に所属。日用品の製造会社において営業に従事し、営業所長としてマネジメント業務も行う。販路拡大や、お店の売り場づくり、棚割の作成などに取り組む。

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