断られた仕事にこそ、活路がある。日本のインフラを支えている町工場(東蒲機器製作所インタビュー③)

人と人とのつながりを重んじる文化と、未来へのバトン

最終回となる第三回は、髙橋様の他社をけなさない誠実な顧客対応、コロナ禍の苦境で挑んだ仕事の種まきと現場の意識改革、工程の効率化、そして未来へ向けた組織の課題について掘り下げます。プレイングマネージャーとしての葛藤を抱えながら、蒲田の地で「国土の土台」を支える町工場としての決意に迫ります。

他社をけなさず真摯に向き合う、対面コミュニケーションから生まれる深い信頼

-技術面だけでなく、お客様との向き合いかたで大切にされていることはありますか?

 髙橋氏:「ライバル会社を絶対にけなさない」ことです。お客様から他社の加工ミスの愚痴を聞いても、一緒になって叩いたりはしません。「あの会社もしっかりした仕事をされる会社ですから、今回はたまたまですよ」とその会社の立場も尊重します。その上で、自社ならどう解決できるかを真摯に提案することが、ビジネスの大前提となる信用問題だと思うからです。

 

-その誠実な姿勢が次の安心につながるわけですね。

髙橋氏:他社の加工ミスひとつから見えてくるものとして、近年の効率化や分業化が進んだ環境では、図面上の設計は非常に緻密であっても、実際の加工プロセスや現場の細かなニュアンスまでは詳しく共有されていないケースが増えている印象です。機械加工においては、図面上の数値をクリアして納品したはずであっても、いざ最終的な組み立ての段階で、わずかな感覚のズレから「うまく噛み合わない」という難しいリスクが起こり得ます。例えば、図面内に細かな加工指示が明記されていない場合、数値上は合格であっても、実際の加工工程で「同心度(二つの円の中心が完璧に揃っているか)」の捉え方に僅かな食い違いがあると、軸を入れた時にほんの少し傾いてしまい、スムーズに奥まで入らなくなることがあります。こうして納品した後に、お互いに「図面の解釈」の前提が異なっていたことが分かり、後から調整に大変な時間と手間がかかってしまうケースがあります。

加工後の製品を手に、コミュニケーションの大切さを語ってくれた髙橋俊樹社長

 

-そうした事態をお互いに未然に防ぐために、御社が徹底していることは何ですか?

髙橋氏:効率や合理化だけを追うのではなく、加工に入る前に必ずお客様と対面で納得がいくまで図面をすり合わせます。「こちらの同心度の許容値はどれくらいですか?」「実際にはどういった環境で動くものですか?」と細かく確認させていただくんです。具体的な使われ方が分かれば、加工のプロとして最適な工程や、どこを仕上げの基準にすべきかが正しく判断できます。お客様が後から困ることのないよう、真摯にコミュニケーションを重ねていくことが、結果として「次も東蒲さんに相談しよう」という新しいご相談や品目増加といった、深い信頼関係につながっています。

 

コロナ禍のどん底でまいた種と、利益を生むための現場の意識改革

-これまで大変だったことや、乗り越えられたことをお聞かせください。

髙橋氏:コロナの時期は、経営者になってから本当に一番つらかったですね。すべての仕事がピタッと止まってしまって、売上は最盛期の3割にまで落ち込みました。「これ、一体どうするんだよ……」と本当に頭を抱えましたね。でも、ただじっとしていても会社は潰れるだけですから、仕事がないなりにやれる種まきはすべてやろうと動いたんです。年に3回は展示会に出て新規のお客様を探し続けました。また、自社で対応できない案件でも、一度受けた話は無下にせず、協力会社のネットワークを駆使して、当社がフロントに立って全体の品質保証や進行管理までを責任を持って担うことで、お客様の「どこに頼めばいいか分からない」という困りごとを解決しながら、新たな信頼関係を築いていきました。その結果、コロナが明けてから産業機械メーカーからのまとまった注文や、ヒーターの案件など、新しい仕事の獲得が成功して売上を元に戻すことができたんです。

 

-そのような苦境の中で、社内の現場に対してはどのように向き合われたのですか?

髙橋氏:実は、社内現場に危機感はあまりありませんでした。危機感の薄れていた現場に対しては、あえて厳しい意識改革を求めました。「普段なら1時間で終わる加工を、暇潰しのために2時間かけてダラダラやるようなことは絶対にやめてほしい」だとか、「売上が立たない分、じゃあどこから利益を持ってくるか、ということに頭を使ってほしい」と伝えました。「毎月当たり前のように出てくる給料が、どこから生まれるのか」ということを、現場には考えてもらいたかったんです。

従業員同士でコミュニケーションを取る様子

 

 

プレイングマネージャーとしての葛藤と、日本の土台を守り続ける未来

-今後の展望とそれに向けての課題についてお聞かせください。

髙橋氏:今の一番のネックは、私がプログラム作成から、段取り、加工、納品、営業までをすべて一人でこなすプレイングマネージャーになってしまっている点です。3年前に高齢の工場長が倒れて以来、私が現場をフルで回しているのですが、それでは時間が全く足りません。最近では、総務をやっている私の兄が現場に降りてきて、手隙の時に補正を入れて簡単な寸法調整や脱着を手伝ってくれるようになったので、少しずつ私の手を空けられるようになってきました。今後は私以外にお客様と対峙し、仕事を任せられるような次世代の人材を育てることが近々の最大の課題ですね。

 

-人材育成と同時に、次世代へのバトンタッチですね。

髙橋氏:他には、父がバブル期に入れた機械を、新しい機械へとそろそろ更新していきたいです。メーカーに聞いて自分で修理するのも限界がありますからね。当社は、ロケットの業界に入りたいとか、大それたビジョンはありません。お客様の期待に、身の丈に合った確かな技術で応え、信頼を裏切らないこと。私たちが担っているのは、日本の道路、鉄道、原子力発電所といった、誰も気づかないけれど絶対に止まってはならない『国土の土台』です。どこに行っても断られて困り果てたお客様が最後に駆け込んでくる、そんな町工場の砦として、これからも大田区蒲田の地で、真摯にモノと、人と向き合い続けていきます。

柔和な表情で未来を語ってくれた髙橋俊樹社長

 


業種   金属切削加工

設立年月          1953年(昭和28年)

資本金              300万円

従業員数          10人

代表者              髙橋 俊樹

本社所在地 東京都大田区東蒲田1丁目13番10号

電話番号       03-3731-7056

公式HP           https://www.toho-kiki.com/

この記事の著者

中坪孝太

中坪孝太中小企業診断士、1級販売士、豆腐マイスター、ソイオイルマイスター

東京都中小企業診断士協会所属。広報部、青年部に所属。日用品の製造会社において営業に従事し、営業所長としてマネジメント業務も行う。販路拡大や、お店の売り場づくり、棚割の作成などに取り組む。

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