挑戦と未来(田中プレス工業株式会社 インタビュー③)

最終回となる第三回は、田中プレス工業株式会社様が厳しい外部環境に晒されつつもTANAKA OUTDOORブランドを立ち上げ、地域との関わり合いを通じて新しい展開を楽しんでいる様子と、創業100周年まで持続的成長を遂げるために残り15年間で取り組むべき課題について掘り下げ、お話を伺いました。

外部環境をどう捉え、どう備えるか。

―昨今の円安・物価高やトランプ関税等の外部環境の影響や業界の変化をどう受け止めていますか。

木原氏:海外情勢、特にウクライナ情勢の影響を強く受けています。これによって、日本の中古車の一大市場であるロシア向けの自動車部品の輸出に大きく影響しています。当社のお客様でもロシア向けにフィルター部品を輸出していた会社が多く、各社は大幅に受注を減らしています。ロシアと同じ規模の需要がある新市場を探すのは難しく、非常に厳しい状況下にあります。

加えて、若い方の車離れもあります。カーシェアが浸透して社会の価値観が変わってきているように感じています。乗用車の販売台数は減少傾向にあり、さらに内燃機関を必要としないEV(電気自動車)が増えてきています。つまりオイルフィルターは必要なくなります。ですから、当社は主力のオイルフィルター部品による大幅な売上げの伸びは期待できなくなっていると思います。

 

―そんな中で、TANAKA OUTDOORというアウトドアブランドを立ち上げた経緯を教えてください。

木原氏:先ほど申した通り、今後、当社の主力商品であるオイルフィルターや燃料フィルターからの売上げが、大幅に伸びることは期待できません。そこで、何か起爆剤となるような商品商材、あるいは何か当社のこれからの存続に貢献するような取り組みや、田中プレス工業という会社や技術力を世の中に広く知ってもらう取り組みが必要で、オイルフィルターの形状をうまく他の用途に使えないかなと考えてはいたものの、よいアイデアが浮かばない時期が長く続いていました。

そんなある時突然、「もしかしたらキャンプで使用するガス缶に当社の円筒状の製品が装着できるのではないか」とひらめいたのです。そこで実際にガス缶の上から中型トラック用のオイルフィルター部品を被せてみたら、本当にピッタリはまったのです。私は趣味でキャンプをするのですが、まさに、点と点がつながって線になったような感覚を覚え、「これは!」と思いました。アウトドア好きな方には車が好きな方が多く、アウトドア用品と自動車部品は高い親和性があると確信していまして、「これは絶対いける!」と思いました。

これなら新たな設備投資が必要なく、既存の金型設備で作れます。また、当社の製造過程で厳しい品質基準から軽微なキズでも廃棄せざるを得ないものが出るのですが、これらを廃棄せずに有効活用して商品化できることに気付きました。それで、自動車部品で作ったガス缶カバーというものを作り販売しようということになり、商品化が始まったのが2024年の4月でした。

ルミエールランタンと組み合わせも抜群のTANAKA OUTDOORガス缶カバー

地域と人をつなぐものづくり

―TANAKA OUTDOORの立ち上げは、御社にどのような影響がありましたか。

木原氏:今年TANAKA OUTDOORは2年目を迎え、徐々に認知されて神奈川県内のアウトドアショップや相模原市の市役所庁舎や観光協会の施設で展示・販売していただいています。これまで、当社はBtoBの商流のみで、お客様からいただいた注文を淡々と作るような会社だったのですが、ついに自社製品を作って直接お客様に販売するというBtoCの領域に足を踏み入れることになりました。ECサイトを作ったり、販売が可能な展示会や催事に出展をして直接販売したりしています。 また、地元のアウトドアショップさんに飛び込みで商品説明を行い、商品を置いていただいています。その結果、相模原市内での当社の認知度が自分でもびっくりするぐらい飛躍的に上がりました。例えば、市内の施設に置きたいので、オリジナルのデザインを提案してほしいとの依頼もあるほどでした。

 

―TANAKA OUTDOORを軸にして地域とのつながりが強まっているのですね。

木原氏:相模原市の書店を併設したコンビニに当社の商品を置いていただいています。そこはオーナーの方が相模原市の PR 活動に熱心な方で、店舗の一角に「キャンプのまち相模原」特設コーナーを作り、当社の商品と、相模原市内にあるキャンプ場のガイドブックを一緒にして置いていただくことになりました。すると、そのコンビニで当社の商品を見た人や、相模原市トライアル発注認定制度の認定品として市役所に展示されたものを見た人から、問い合わせが入るようになりました。その結果、当社と、当社に協力いただいている店舗の双方で、売上が上がるという相乗効果が生まれています。もともとは当社の発展のために始めたことが、周辺の発展や地域の盛り上がりにつながり、やり甲斐を感じています。

アウトドア最大イベント「フィールドスタイル」出展時のTANAKA OUTDOORブース

 

持続的成長に向けた課題

―TANAKA OUTDOORは昨今の外部環境による影響をはねのける起爆剤になり得ますか。

木原氏:正直言って、TANAKA OUTDOORがそれだけで収益面を挽回できるほどの起爆剤になるとは言えません。TANAKA OUTDOORの活動を通じて、田中プレス工業という会社を大々的に世間に周知をして、我々が生業としているプレス加工の技術を上手くお伝えすることで、新規事業につなげていけることが理想だと思います。当社も岐路に立たされていると思います。他にはない当社の技術やノウハウで生き残っていけるよう、また、今後の担い手不足に対応できるよう、作業の省人化やDXを推進して社内体制を変革していく必要があると考えています。

 

―100年企業に向けた持続的成長のために、今後、何に取り組まれるでしょうか。

木原氏:今まで、当社は業界の中で助け合いつつ、上手く立ち回ってきたおかげで生き残ってきた側面があります。それは、新規販路開拓の営業力をそれほど必要としてこなかったとも言えます。既存のお客様から定期的に注文をいただいていた時代が長い分、新規事業を求める営業力が不足しています。これから5年、10年をかけて、自動車業界以外に新たな収益の柱を設けるという課題を解決し、創業100周年を迎えられるよう、TANAKA OUTDOORの活動で得た知見を活かしつつ、新たな販路開拓に注力していきたいと思っています。

田中プレス工業の夢と未来を語る大野部長(左)と木原主任(右)

 


会社名:田中プレス工業株式会社

業種   金属加工、金型設計・製作、測定解析

設立年月          1959年7月

資本金              4,000万円

従業員数          34人

代表者              田中雅敏

本社所在地      神奈川県相模原市緑区西橋本4-2-2

電話番号          042-772-1351

公式HP           http://www.tanaka-press.co.jp/

この記事の著者

種本淳利

種本淳利中小企業診断士

東京都中小企業診断士協会中央支部所属。国際部に所属。総合商社で再生可能エネルギー由来の発電事業に従事し、国内の風力発電やバイオマス発電などの新規事業開発からアセットマネジメントを推進中。海外駐在歴は台湾、アラブ首長国連邦、インドネシア。

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